読書感想:育ちざかりの教え子がやけにエモい3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:育ちざかりの教え子がやけにエモい2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、前巻で齎されたひなたの告白を画面の前の読者の皆様は覚えておいてであろうか。達也の事が大好きであると言うひなたの想い、それは誰にも否定できぬ想いであり絶対に譲れぬ想い。そして、その想いの前には年齢なんて関係ない。だが、大人と子供には取れる選択肢に違いがあると言うのもまた確かな事である。

 

ではこの巻についての感想を述べていく前に、この巻の大切なキーワードを私なりに一言で纏めんとする。ならばどんな一言が良いであろうか。その一言は「選択」という言葉がぴったりであろう。

 

 

 そう、「選択」である。達也の大人だからこその選択もあれば、ひなたの子供だからこその選択もあり。大人と子供、老成と若さ。その対比と選択が新たな嵐の幕開けとなるのが今巻なのだ。

 

《達也くん》

《もう一度わたしと付き合ってください》

 

《こちらこそよろしくお願いします。明日香先輩、俺と付き合ってください》

 

明日香とのすれ違いを重ねた上に築いたもどかしい関係。そこに齎される明日香の故郷への帰郷と、お見合い話。その前に告げられた想いと投げかけた答え。思えばこの答えは当然であったのかもしれない。達也の目は今明日香を見ている。そして大人と子供であれば、大人を選んでしまうだろう。それを「逃げ」と呼ぶのならばそうであるのかもしれない。勿論、大人だからこその「柵」だってある。でも、それでも大人は選ぶ。大人だからこその考えと、大人だからこその選択肢で。

 

 だが、そんな事は子供には関係ない。子供の選択肢はいつだって純粋だ。そして子供の成長はいつだってまるで伸びる芽のように。誰しもが予想しない速度で成長していく。

 

「好きな人がいます」

 

スカウトを受けて友と挑んだ映画のエキストラ。大人にも負けぬ程の輝きを見せ畏怖を刻み。ひなたは大人に、何故役者になりたいのかと聞かれ凛とした声で毅然と返す。好きな人がいる。並びたい人がいる。だからこそ今、大人になる為に役者になりたいと。

 

その輝きと心に魅せられるかのように、ひなたの掌の上で転がされていく大人達。先達である女優にまで恐れを刻み、いつか自分を追い抜いていく予感を抱かせ。それでもひなたは達也を追いかける事を選ぶ。何故なら彼が好きだから。

 

大人はいつだって狡くて、子供はいつだって真っ直ぐで。そんな選択がそれぞれの場所で為される今巻。

 

画面の前の読者の皆様、どうか覚悟してほしい。

 

本当の嵐は、きっとここから。

 

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読書感想:魔女と始める神への逆襲 道化の魔女と裏切られた少年

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもし、気付かぬ間に誰かに裏切られているとしたらどうするだろうか。もし知らぬ間に、何かとんでもない大きな陰謀に巻き込まれていたら貴方はどうされるであろうか。

 

定められた「試煉」を達成することで、超常の力と呼ばれる「魔技」と呼ばれる力が手に入る、とある異世界

 

かの異世界のとある国の王都で、かつて罪人を狩る組織に所属しながらも今、世界から排斥されかつての味方を始めとする様々な勢力から狩られようとしている少年がいた。彼の名はティクス。何故彼は狩られそうになっているのか。それは彼の心臓に刻まれてしまった魔技に理由があった。

 

その魔技の名は「神匣」。刻まれたものに、多大なる力と不死の恩恵を齎し、その心臓を喰えば神に至るとまで言われた禁忌の魔技である。

 

世界の全てが敵であるはずだった。だがそんな切羽詰まった状態の彼に手を差し伸べる者がいた。彼女の名はオヨチ(表紙)。かつて百年の前、世界で暴虐の限りを尽くした魔女の一人である「道化の魔女」である。

 

「オレさまが悪の限りを尽くして、ちゃーんとオマエの中にいる神様を消してやるよ」

 

世界から課された理不尽への復讐の為、オヨチは「神匣」を消す事を望み。世界から狩られぬ為にティクスは「神匣」を消す事を望む。

 

今ここに締結された魔女と罪人の共犯者関係。だが、その関係は「神匣」を消す方法の一つである特殊な薬の材料を集める為の行動の最後、裏切られる。

 

「残念だったな、ティクス。仲間ごっこはもうお終いだ」

 

その背後にいたのは、ティクスの属していた組織の長であり、オヨチの師匠であった「常闇の大魔女」。神の力を手にするのではなく、神を使役する。それこそが大魔女の願いであり、オヨチは道化として踊っていたにすぎず。

 

だが、大魔女もまた裏切り者。彼女もまたオヨチを裏切った存在であり、「神匣」を創り出してしまった張本人。

 

「それより前に、裏切られたからですよ。魔導省にね」

 

そしてティクスもまた、大魔女に裏切られた者。抱いていた純粋な正義を踏みにじられ、望まぬ魔技を刻まれてしまった者。

 

「手を貸せ」

 

「仰せのままに、魔女さん」

 

だからこそ、かの大悪を討つ為に。利害関係も怨恨も越え、オヨチとティクスの二人は相棒同士として大魔女へと立ち向かう。

 

 

その結末は是非、皆様の目で見届けてほしい。

 

ダークファンタジーが好きな読者様、裏切りの連鎖する息もつかせぬ展開が好きという読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:転生王女と天才令嬢の魔法革命3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:転生王女と天才令嬢の魔法革命2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、前巻で王位継承者であるアルガルドと真っ向勝負の姉弟喧嘩を繰り広げ、下す事に成功したアニスとユフィリア。だが果たしてそれは正しい事だったのだろうか。無論、彼を止めなければいけなかったのは確かである。確かなのである。だが、彼を止めた結果何が起きてしまうのか。それこそが王家というものの問題で在り、解決すべき問題なのだ。

 

その問題の正体、それは「王位継承」という問題。前巻でアルガルドは下され、廃嫡された。

 

しかしそれこそが全ての歯車、今まで上手く回っていた歯車を狂わす原因となってしまう。廃嫡されたという事は、もはや王位は継げぬという事。つまり、もうアニスしか残っていないのである、王位を継ぐことが出来るのは。

 

前例などない、自分は王として相応しくない。だとしても、それでも王となる事を望まれ自らもまた課し。その重責と苦悩はアニスを気付かぬうちに追い込み疲弊させ、憔悴させていく。

 

当たり前である。今までは好きな事に全力を裂くだけだった、その十割のキャパシティーを全く別の物に変える事を決意してしまったのだから。

 

そんな彼女を誰よりも間近で見つめ、ユフィリアは決意する。彼女の重荷を取り除く為、何より愛する彼女の為。自分が女王とならん事を。

 

その為に必要なのは精霊との契約。伝説にも刻まれし王の偉業であり、十分なる功績となるもの。

 

だがそれは禁忌へと踏み込む決断。精霊と契約するという事、それは人としての理を外れてしまうという事。かつての伝説の国王の娘、契約者としての先人のリュミは静かに諭す。

 

しかし、ユフィリアに迷いなど無かった。

 

「―――出来る資質があるのと、だからってやらされるのは話が別だろう」

 

王座を継ぐ、その先の未来を想像してしまったから。

 

「―――ただ、お慕いしているからです」

 

ただ慕っているからこそ、彼女だけに重荷を背負わせぬ為に。

 

「私は、貴方を王にしたくなどないのです」

 

「私は、貴方に全てを捧げさせたくない」

 

だがそれは、アニスの一番大切にしている心の芯を奪うという事。そしてアニスもまた、ユフィリアを大切に思うからこそ全てを捧げさせる気なんて更々無くて。

 

なればこそ、決着を。二人の譲れぬ想いをぶつけ合い、全て出し切ってぶつかる事で生まれる結末。それは是非、画面の前の読者の皆様の目で見てみてほしい。

 

叫びにも近い心からの声が響き渡り、譲れぬ想いがぶつかり合う、それが何処までも生に満ちているからこそ、この作品はやはり面白いのだ。

 

前巻まで楽しまれた読者様、王道百合ファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

転生王女と天才令嬢の魔法革命3 (ファンタジア文庫) | 鴉 ぴえろ, きさらぎ ゆり |本 | 通販 | Amazon

 

 

読書雑記:発売日前恒例、新刊紹介なお話。MF文庫、オーバーラップ文庫、ダッシュエックス文庫編。

こんばんは。一月もそろそろ終わりますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は今、久しぶりの飲酒でほろ酔いな真白優樹です。では今回は、早い所ではそろそろ発売されている25日が公式発売日の三レーベルの中から、個人的期待の新作及び続刊についてお話したいと思います。

 

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神は遊戯に飢えている。1 神々に挑む少年の究極頭脳戦 著:細音啓先生 絵:智瀬といろ先生

 

ではまずはMF文庫より、こちらの作品から紹介です。最早説明不要かもしれませんが、ファンタジーの旗手であられる細音啓先生の新作となります。今度は神々とゲームで対決との事で、既にかなりの有識者の方々から支持を集めているようですが、果たしてどんな遊戯が待っているのか。楽しみです。

 

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裏社会最強の男、終末異世界を愉しむ。 終幕に捧ぐ反逆転劇 著:水城水城先生 絵:つくぐ先生

 

二作品目はこちら。様々なレーベルでバイオレンス&スプラッタな作品で人気を博する水城先生の新作となります。今度も何やらとんでもないダークな気配がしますが、どんな作品となるのか。楽しみですね。

 

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お嫁さんにしたいコンテスト1位の後輩に弱みを握られた 著:岩波零先生 絵:阿月唯先生

 

三作品目はこちら。MF文庫で幾つかのシリーズを手掛けられてきた岩波先生の新作です。今度は推し活が絡む秘密のラブコメという作品らしく、どんなラブコメが待っているのか。期待したいですね。

 

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義妹生活 著:三河ごーすと先生 絵:Hiten先生

 

四作品目はこちら。MF文庫で様々な人気のシリーズを手掛けられている三河ごーすと先生の新作となります。こちらは動画サイト原作との事で、恋愛生活小説とはどういう事か。そのあたりを楽しみにしたいと思います。

 

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きゅうそ、ねこに恋をする 著:三月みどり先生 絵:Tota先生

 

五作品目はこちら。こちらもMF文庫でかつてラブコメを手掛けられていた三月みどり先生の新作です。窮鼠が猫に恋をするとどうなるのか。楽しみです。

 

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聖剣学院の魔剣使い6 著:志瑞祐先生 絵:遠坂あさぎ先生

 

ではMF文庫Jからのピックアップとしては最後、六作品目はこのブログでも記事にいたしました作品の続刊となります。前巻の最後でいよいよ正体バレか、となる所でしたのでどうなるのか。楽しみにしたいと思います。

 

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カンピオーネ! ロード・オブ・レルムズ2

著:丈月城先生 絵:BUNBUN先生

 

ではここよりはダッシュエックス文庫の紹介です。まずはこちら、このブログでも記事にいたしました作品の続刊となります。どんどんとクロスオーバーが深まるであろう中、どんな戦いが待っているのか。楽しみですね。

 

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王立魔法学園の最下生 ~貧困街上がりの最強魔法師、貴族だらけの学園で無双する~ 著:柑橘ゆすら先生 絵:青乃下先生

 

二作品目はこちら。様々なレーベルで作品を手掛けられている、小説家になろうの大家とも言える柑橘ゆすら先生の新作となります。今度の作品はダーティな匂いのあるファンタジーとの事で、どんな面白さと戦いがあるのか。楽しみです。

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パワハラ聖女の幼馴染みと絶縁したら、何もかもが上手くいくようになって最強の冒険者になった ~ついでに優しくて可愛い嫁もたくさん出来た~ 著:くさもち先生 絵:マッパニナッタ先生

 

ダッシュエックス文庫最後の作品はこちら。小説家になろうより書籍化される作品となります。なろうではまだまだ多い追放系のこちらの作品、果たしてどう魅せてくるのか。期待したいですね。

 

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TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す3 ~ヘンダーソン氏の福音を~ 著:Schuld先生 絵:ランサネ先生

 

 

では最後はオーバーラップ文庫からの紹介です。まずはこちら、やはりこの作品もこのブログでも記事にいたしました作品の続刊となります。今度は命がけの迷宮攻略との事で、また生き残れるのか。最大の窮地をどう乗り切るのか。楽しみにしたいと思います。

 

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星詠みの魔法使い 1.魔導書作家になれますか? 著:六海刻羽先生 絵:ゆさの先生

 

二作品目はこちら。第七回オーバーラップ文庫大賞で栄えある金賞を受賞された作品となります。王道なファンタジーの香りが凄く漂うこちらの作品、どんな面白さがあるのか。楽しみです。

 

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Re:RE ―リ:アールイー―1 転生者を殺す者

著:中島リュウ先生 絵:ノキト先生

 

二作品目はこちら。第七回オーバーラップ文庫大賞で銀賞を受賞された作品となります。こちらはどうやら、異世界からの転生者との戦いを描くと言う事で、どんな戦いが待っているのか。独特の戦いを楽しみにしたいと思います。

 

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今日から彼女ですけど、なにか? 1.一緒にいるのは義務なんです。

著:満屋ランド先生 絵:塩かずのこ先生

 

では最後の作品はこちら。こちらも銀賞を受賞された作品です。こちらはどうやらラブコメとの事で、どんなラブコメが待っているのか。楽しみにしたいと思います。

 

以上、期待の十三作品でした。ではまた、今月も読んでいきましょう。

読書感想:シェアハウスで再会した元カノが迫ってくる

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は元カノ、元カレと呼ぶであろう存在はあるであろうか。忘れられぬ別れ方をした、という読者様はおられるだろうか。

 

ではここからこの作品の感想を書いていかんとするが、まず初めに試験的な試みとして、この作品についての感想はいつもとは違う書き方をする事をお許しいただきたい。いつもの方が読み易いか、今回のような形の方が読み易いか。コメント欄で宜しければ教えていただきたい次第である。

 

・「いちゃ甘ではなくじれ甘」

 

これは作者であるくろい先生が言われている事であるが、この作品はじれ甘である。何故じれ甘なのか。それはこの作品の主人公である悠士とヒロインである真冬(表紙)が元恋人同士という関係だからである。しかも二人は互いに浮気されたと思い別れてしまった恋人同士なのである。ではこの作品の面白さは何処から来るのか。これより二つの項目に纏めて話していきたい。

 

面白さその一:シェアハウスという舞台

 

 まず初めに面白さの根幹を為しているのはこの作品の舞台であるシェアハウスという舞台である。シェアハウス、それは互いの生活を成り立たせるために独自のルールが必要な場所であり、共同生活という事で仲間であり家族である他人がすぐ側に存在する場所。だが時に二人きりになる事もある。この説明を聞いて、画面の前の読者の皆様は何かを連想されるであろうか。そう、この要素は一部を除いてしまえば「同棲」という恋人同士の生活様式と同じである。そしてこの要素、中々二人きりになれぬという要素が「じれ甘」という甘さを際立たせているのだ。

 

面白さその二:「じれ甘」という甘さ、その本質。

 

 では「じれ甘」とは一体何なのであろうか。勘のいい読者の皆様であればもうお気づきかもしれないが、実はお互い浮気していたというのは誤解と勘違いである。無論そうでなければ、じれ甘なんて成立する事もないのは明白である。

 

ではお互い誤解であると分かった二人の心の中に燃え上がった心は何か。それは「好き」という想い。忘れられなかったお互いへの好意なのである。

 

「なんで、真冬とまた恋人になりたいって思っちゃうんだろうな」

 

どうしようもなく元カノの事が気になる、悠士。

 

「眉毛が微妙だって言いたかっただけ。顔は良いんだし、勿体ないから私に整えさせてよ」

 

別れた筈なのに、気が付けば一緒に過ごせる口実を追ってしまう真冬。

 

お互い今は関係のない筈なのに、相手の事がどうしても気になってしまう。誰かと仲良くしているのを見て、もやもやしてしまう。なのにあと一歩が踏み出せぬ。その一歩を詰めさえすれば。そう思わせてくれるのに。

 

正に一番近くて一番遠い。それが今の悠士と真冬の間に空いた距離なのである。

 

・だからこその面白さ、というお話。

 だからこそもう一度ここから、また初めから。お互い同棲しながらも失敗ばかりでぶつかってばかり。だけどここからなら、きっとやり直せるから。

 

時間は必要だと分かってはいる。だけどそれでも、いけ、そこだと言いたくなってしまう。

 

だからじれったくてこそばゆい、正しく「じれ甘」。そして二人の想いはもうはっきりしている。後は一歩、踏み出すだけ。

 

そんな一見捻っているように見えて王道ど真ん中の甘さが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はファンタジーはお好きであろうか。若しくはサイバーパンクな近未来的な世界はお好きという読者様はどれほどおられるだろうか。ではもし、未来の世界で魔法が使えるようになっていたら、貴方はどんな魔法を使われたいであろうか。

 

かつてとある異世界、魔法が存在する異世界で聖剣を携える勇者、グラム(表紙左から三人目、青マントの人物)に討たれた不死なる魔王、ベルトール(表紙右端)

 

だがしかし、五百年の時を経て儀式の完遂により復活した彼の目に映る世界は、とんでもなく様変わりしていた。かつての世にはなかったものが溢れ、夜の闇の中にも無数の光が乱舞する世界へとなっていたのだ。

 

それもその筈である。何故なら世界は、現想融合という融合現象を経て、機械が発達した欲し、我等が地球と融合してしまっていたから。そしてベルトールが復活した場所は、魔導工学という新たな工学が発展し、「ファミリア」と呼ばれる魔導具とエーテルリアクターを元に発展を遂げた都市国家、「新宿市」だったのだ。

 

時を経ても変わらぬ忠誠を送る忠臣、マキナ(ベルトールの左上)に支えられ案内され、まずは超巨大企業の社長となっていたかつての配下の一人、マルキュス(表紙左上)へと接触を図るベルトール。

 

 だが、自らが魔王になると言う欲望を抱えたマルキュスは既にベルトールを裏切っており、彼の手によりファミリアはベルトールには適合しないよう作られていた。そして信仰も失ってしまった彼は今、最弱の存在へと身を墜としていた。

 

早急に信仰と畏怖を集めねば戦力にも事欠き、更には食い扶持を得なければ生活すら出来ぬ。

 

「こんばんモータル~、どうもー定命の者共、生の苦しみ味わってる? 魔王ベルトール=ベルベット・ベールシュバルト、即ち余である」

 

マキナの友人であるハッカー、高橋(マキナの左下)に提案を受け彼はライブストリーマーという今時な仕事を始め、収入を得ていく。

 

そして、彼はそんな新しい生活の中で知っていく。今までとは全く違う生き方、そしてこの新宿という都市に隠された凄惨な真実。不死なる者達を生贄にし、この都市は稼働しているという真実を。

 

「・・・・・・勇者と魔王が手を取り合うとは、今まで考えた事もなかった」

 

「僕もさ」

 

一連の事態の裏にいた黒幕、マルキュスに拉致されたマキナを救うべく、不老の加護により生きていたグラムと一時共闘し。

 

「戯けが。五百の星霜で耄碌したか。我こそは闇の梟雄、魔王ベルトール。悪逆非道こそ我が王道よ」

 

そして、新しき生活の中で知ったあの日の負けた理由、「命の輝き」の意味を胸に。不忠な輩へと、裁きの鉄槌を繰り出して見せる。

 

 科学と魔法が交差し融合し、目の前に広がる未知の世界。そこで繰り広げられるのは、魔王の成長とあの日と変わらぬ悪の覇道。

 

正に古きと新しきが絶妙な感覚で噛み合っており、そこに王道という芯を通しているからこそ、この作品は面白い。正に大賞に相応しいのである。

 

サイバーパンクな世界が好きな読者様、ファンタジーの王道が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:剣と魔法の税金対策

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消費税、市民税、県民税、確定申告。これらの用語は全て税制に関わる用語である。税制に関して、画面の前の読者の皆様はどう思われるであろうか。私個人としては給料からの天引きという形で勝手に回収されているけれどイマイチ役立つ使い方をされている印象はないが。ではもし、現代世界ではなくファンタジー的な異世界に税制があったら一体どうなってしまうのであろうか。

 

「我の配下となれば、世界の半分をくれてやろう!」

 

「え、マジ!? わかった!」

 

とある異世界にて今まさに始まろうとしていた勇者メイ(表紙中央)と魔王ブルー(表紙右)の決戦。が、その決戦は始まる前に終わろうとしていた。魔王によくある台詞である世界の半分をくれてやるから配下になれと言う言葉に、銭ゲバな一面をもつメイが反応してしまった事により。

 

世界の半分を手に入れ、めでたしめでたし・・・で終われれば良かった。だが終わらなかった。突如現れた天使、ゼオスは二人に告げる。

 

贈与税がかかります」

 

そう、ゼオスは「税」を司る天使であり、この世界は何と「税」に関する制度が根幹を司る世界だったのである。

 

考えてみれば当たり前かもしれない。世界の半分に贈与税がかかるのならば、そうなってしまう筈である。

 

その課税を何とかする為、偽装結婚をするメイとブルー。しかし魔王城の経理を監査したゼオスはザル過ぎる経理に追徴課税を課し、三か月の納税猶予を与えてくる。

 

進退窮まる勇者と魔王。そんな二人は過去の魔王が遺した手がかりから最後の希望を見つけ出す。その名はクゥ・ジョ(表紙左)。世界最後の「ゼイリシ」の少女である。

 

まずは魔王城の家事按分を申告し半額に。更には魔王城の魔物達の福利厚生費、深夜手当、残業代を計上し国債を売りつけ、新たな産業を興したり。

 

正しく八面六臂の大活躍。だけどそれをよく思わぬ輩も存在する。その正体、それは戦争が続く事で得をむさぼる悪党共。彼等の卑劣な手により時間は削られ、約束の刻限は来てしまう。

 

だが、それを助けるものがあった。それは、ブルーの無償の優しさ。誰かに施してきた善行が、巡り巡って助けとなる。正しく、「情けは人の為ならず」と言わんばかりに。

 

「これが最後の確認です。申告は、先程のでよろしいのですね?」

 

「あります!!! まだあります!!」

 

異世界も税制があったら世知辛い。けれどどんな世界でも、善行の尊さと人の温かさは変わらない。

 

読むと少しだけ税に関して詳しくなれるかもしれないこの作品。

 

税について知りたい読者様、独特の温かさが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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