突然ではあるが画面の前の読者の皆様、想像してみてほしい。もし貴方の近親者に、変わり者だけどそれでも見逃せない輝きを持っている者がいたとしたら。貴方はどうされるだろうか。
さて、上記にURLを載せた前巻からこの作品は始まり、いきなりドラゴンと遭遇しアニスとユフィの二人で討伐した後、何が待っているのか。
その答えは王宮における政治闘争。対する相手は次期国王、アニスの弟であるアルガルド。そして、その争いに巻き込まれる不幸な少女、それこそがユフィが迫害される原因となった薄幸の令嬢、レイニである。
そもそも何故、レイニはあんなにも持て囃されたのか? 何故悉くが彼女の味方となったのか?
その答えは彼女の心臓へと隠された魔石、そして血筋。彼女の正体は古来より伝わる伝説の化物にして狂気の産物の忘れ形見、吸血鬼であった。
吸血鬼としての力、それは認識の刷り込みに近い魅了の力。その力を狙い、迫りくるアルガルド。アニスと始めるのは、国の行方を賭けた不器用な姉弟の本気の喧嘩。
何故、彼は道を誤ったのか。何故彼は狂ったのか。そこに込められていたのは、世界への呪い。そして誰にも言えなかった慟哭だ。
そう、彼は誰よりもアニスの近くにいた。奇天烈として忌まれるも注目され人望を集めていた彼女の側に、「いてしまった」。
「君にとって、魔法って何?」
「呪いだよ、姉上」
彼には魔法の才があった。姉にはない魔法の才が。だけど、それだけだった。彼には他に何もなかった。
ユフィが側にいた、だけど自分が釣り合っているのは王子だったから。
アニスという異端の天才の背を追う度に見せつけられた、自分には才なんてない事を。
「俺は最初から幸せを手にする権利もなかったということか!」
「俺など、生まれてこなければよかった」
「姉上・・・・・・なりたい者に、なれないのは辛いなぁ・・・・・・!」
血も地位も、伝統も魔法も。彼を支えるのは継がれてきたものだけで。
なりたい者にはなれず、自分に出来るのはただ次代に続かせる事だけで。
彼は誰よりも不器用だった。そして、誰よりも不幸だったのだろう。
そう、アニスという転生者は確かに世界を進ませる鍵であり、革新を生む光だ。だけど同時に光は影を呼ぶ。そして影は光に消され消えていく。いい事ばかりではない、悪い事をこの巻では描いており、悲喜劇として描かれた姉弟喧嘩が何かを考えさせてくれるだろう巻である。
一巻とセットとなる内容なので、是非読んでほしい次第である。