さて、人間生きていく上でメンタルに傷を負うことは多分、幾らでもあるであろう。そういう時、傷にどう対応するのか。時間が解決してくれるかもしれないし、何か気分転換になるものを嗜んで、癒せると言う事もあるかもしれない。その方法は人それぞれであろうが、似たような痛みを抱える人と痛みを分け合う、という方法もあるかもしれない。同じような痛みを知るのならば、互いの気持ちもわかるはずであるから。
と、まぁちょっとセンチメンタルな前書きから始めた訳であるが。この作品もまた、そんな作品なのである。状況は違えど、心に痛みを抱いた二人が支え合っていくお話なのだ。
お隣さんであり姉弟のように育ってきた幼馴染、麻里佳に告白するもフラれてしまった少年、隆史。一人になりたくて訪れた屋上で遭遇したのは、「白雪姫」と呼ばれる学校一の美少女、姫乃が一人涙している光景。涙する彼女を放ってはおけない、それはお節介かそれとも。とにかく粘って話を聞きだしてみれば、どうも一部女子達からやっかまれ心無い言葉を浴びせられたという事で。
「辛い時は泣いてスッキリしよう。泣き止むまで一緒にいてあげるから」
そんな彼女に提案したのは、自分の胸で泣く、という事。快く胸を貸し、ようやく泣ける場所を得た彼女は大泣きし。お礼と言わんばかりに今度は隆史の方が、姫乃の胸で泣かせてもらい。気が付けば、お互い傷ついた心を見せ合っていた。お互いに何かを見つけていた。
「お礼をしたい、です」
それはきっと、姫乃の方が比重が大きかった、とも言える。まるで安心できる場所を手放したくない、と言わんばかりに。手料理を作りに行ったり、風邪を引いてしまった隆史を膝枕で看病したり。更には名前呼びも提案し、どんどんと距離が近づいてくる。まるで彼を止まり木とするかのように。彼と共にありたいというかのように。
そんな中、姫乃に付きまとう悪い噂を払しょくするために恋人同士のふりをして。麻里佳にも見守られる中、噂を払しょくするための大胆な触れ合いが、いつの間にか周りにバカップルとして受け入れられて行って。
「だから・・・・・・もっと一緒にいましょう。少なくともお互いの傷が完全に癒えるまでは」
「もちろん一緒にいるよ」
段々と分かっていく、彼が自分にとって一番大事な人であると言う事を。段々と心動いて惹かれていく。麻里佳に向いていた思いが、いつの間にか姫乃へと向いていく。その気持ちの揺れ動きが、ひとつの決意を生んでいくのである。
何処か煤けて、ちょっぴり危うさも感じるけれど純愛なこの作品。痛みもある愛を見てみたい読者様は是非。 きっと貴方も満足できるはずである。
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