読書感想:余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く

 

 さて、例えば子供の頃に観て感動で泣いてしまった映画があるとしよう。大人になってからもう一度見てみて、また感動で泣かれたか、それとも泣かなかったか。泣かれなかったと言う方もおられるかもしれない。それは何故なのだろうか。大人になって、泣きのポイントが変わってしまったのだろうか。それとも、心が変化して泣きの要素で泣けなくなってしまっているのだろうか。とそんな例えはともかく。大人になるにつれて泣かなくなった、という方も画面の前にはおられるかもしれない。

 

 

何故泣かなくなったのだろうか。心が強くなった、というのならいいかもしれない。だけど心が生活の中で社会に揉まれて擦り切れてしまった、としたら。それは好ましくない変化であろう。 いつまでも若々しい感性を持っていたい、ものである。それはともかく。そんな感動を「エモい」というのなら。それは若者の方が持っていて、よく分かるものであるのかもしれない。

 

「前回と同じなら一ヶ月くらいかな、多分」

 

そんな「エモい」、というのはこの作品のヒロイン、杏(表紙)の生存に必要なもの。級友である平凡な少年、柊だけが気付いた事。それは彼女の影が狼の形をしていると言う事。杏から聞かされたのは、実は彼女は治療困難な難病で三年前に死んでいたはずで、今わの際に「カゲ」と呼ばれる不等価交換を生業とする怪異と出会い契約を結び、エモさと引き換えに寿命を得ていると言う事。

 

そんな彼女に付き合わされ、一カ月に一度エモさを探して。夜の学校のプールに侵入してみたり、公衆電話から敢えて電話をかけてみたり。だが何故か、一カ月は伸びている筈の寿命が何故か延びていなくて。新たなエモさを探して、柊の幼馴染である夜桜から意見を貰ったり、駄菓子屋に行ってみたり。その中で二人でいる写真が拡散してしまい、やむを得ず二人は付き合っている、という事にし。柊の周りの人間関係に波紋を広げつつも、付き合いは続き。杏のちょっと闇のある家庭事情を目撃したり。

 

「夕暮れっていいよね」

 

その先にエモを探して二人で旅行に行ったり。だけど何故か彼女の顔が気にかかる、どこか変、我慢している、無理している。それは何故かと問いかける前、エモさは集まらず命の期限は迫り。 彼女の難病の事は周囲に知られ、夏祭り。判明するのは杏の契約の真実。そもそもエモが集まる訳もなく、だんだん道は閉ざされつつあったと言う事。

 

「じゃあ、これはわたしと柊くんとの契約」

 

それでも生きていて欲しい、最期の時はこんなものであってほしくないと。願って彼女をこの世にと願い。本来の思いを封じて結ぶ契約、それは二人を縛る鎖。

 

これはいつの日か、終わりが来ると分かっている。段々終わりへと道は誘導されていく。それでも、と最高のエモ、死に場所を探して歩いていくお話。

 

 

何処か不思議な独特の空気を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く (MF文庫J) : 鳴海 雪華, popman3580: 本