読書感想:フェアリー・バレット ―機巧乙女と偽獣兵士―



 さて、ラノベにおいてロボットもの、というのはあまり見かけないかもしれないがそれは何故なのだろうか。科学的な設定考証が必要であるからかもしれないし、メカまで書けるイラストレーターさんがそんなにいない、からかもしれない。そんな中でもパワードスーツもの、というのは中々に少ないかもしれぬ。この作品はそんな珍しい、パワードスーツ×ロボットなSFものなのである。

 

 

「・・・・・・戦乙女」

 

異界より出現する、地球の生物と類似した特徴とあまりにも違う狂暴性と残忍さを持った「偽獣」。出現より半世紀近く、今は妖精機関と呼ばれる機関が国家を束ねて命令を出し名目上は世界が一丸となり戦っている世界。歩兵一人一人にパワードスーツが支給され、しかし女性にしか支給されず、使えぬスーツがあった。その名も「ヴァルキリードレス」。圧倒的火力と空を翔る力を与えるそれは、地を走る歩兵からすれば見上げても届かぬもの。

 

そんな歩兵の一人であり、とある計画の生き残りである青年、蓮。ある日任務からの帰投中、遭遇したのは未知なる偽獣。なすすべなく舞台は全滅、本人も瀕死の重傷で。

 

「―――志願します」

 

その病床に現れたのは謎の博士、ジョン・スミス。彼が誘うのは悪魔の計画、ヒーローを創り出すために偽獣の細胞から創り出した新たな臓器と手足を移植、ヴァルキリードレスを扱うのに必要な魔力を男でも生み出せるようにするというもの。成功率一割以下の手術に、どうせ使い道のない命だからと志願し。運よく生き延び、人型機動兵器のテストパイロットとなり士官候補生として、ヴァルキリードレスの搭乗者を育成する学園に入る事となる。

 

「君まで問題児と思わなかったわ」

 

しかし、そこは無論女性の園。そして自分の気持ちは希薄、唐変木で朴念仁な蓮は浮いてしまう。級友である少女、ルイーズは気にかけてくれるも異分子として奇異な目で他の者には見られ。更には新たなコールサイン、「エンヴィー」と共に試験機、サンダーボルト改の起動試験に挑むも、望んだ成果は中々上げられず。

 

「いいじゃない。後ろ向きだろうと、それだけ突き通せるなら可能性があるわ」

 

駆られる焦燥、分からぬ理由。それに光明を当ててくれるのは、自分を嫌っていたはずのエース、真矢(表紙)。問われる理由、自分でも見ないようにしていたそれは嫉妬。それを認めた時、魔力は応えてくれる。

 

次の段階に進み状況は待ってはくれず。戦場へのお出かけ、しかし孤立した味方を救う為にルイーズとコンビを組み戦場へ。多数の偽獣相手に歩兵の流儀で暴れ回るも、身近にいた敵が牙を剥く。

 

『―――必死に生き足掻いて、ようやくチャンスを掴んだ人間を嫌いになれないのよね』

 

そこへ助けに来てくれた彼女に連れられ何とか帰還し。しかし彼を中心に政治の動きは始まるのだ。

 

泥臭くも一歩ずつ、まさにヒロイックな熱さのあるこの作品。心熱くしたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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