読書感想:僕らの春は稲妻のように

 

稲妻と言えばなるかみ、なるかみと言えば・・・とこれ以上語ると私のTCGプレイヤーとしての顔が出てくるのでここまでとして、婚約から始まるラブコメ、というのも往々にして存在するものである。言わば段階を飛ばした状態から始め、其処に至るまでを婚約者という立場から埋めていく事が面白いのであるが、そも婚約という最終段階まで一気に行くのも稲妻のようなものであろう。そんな「稲妻」というワードが重要であるこの作品は、果たしてどんなお話なのか。

 

 

母子家庭、変声期を迎えても低くなり過ぎなかった声、低めの身長。それくらいの特徴を持つ少年、譲。彼はある日、自分が天条寺家という名家の落とし種であるという事実を知らされ、横浜の高級ホテルで父親と会う日を待っていた所、大人びた少女がチンピラ風の男に絡まれている現場を目撃する。

 

「ちょっと、私と結婚してみない?」

 

死ぬわけじゃないという信条の元、放っておけないから助けようとしたらいきなり結婚を持ち掛けられ、その場では返事が出来ず。一先ず少女と別れ父親と邂逅した後日。父親の願いで転校した名門中学校で、謎の大人びた少女、白亜(表紙)と再会するのであった。

 

再会して早々、彼女から告げられたのは白瀬という名門の家の令嬢である彼女と自分の婚約が既に成立している、という事。訳も分からぬまま気ままな猫のような彼女に振り回され。学校を飛び出しサボったかと思えば彼女に家に押しかけられたり、反撃しようと思ったら何故か彼女の実家に挨拶に行く事となったり。生を謳歌するようにエネルギッシュな彼女に振り回される中、彼女と過ごす時間が増えて学校の中でも外でも外堀が埋められていく。

 

「だって、わたしのキスは特別だからね」

 

まさしく稲妻のような、猛スピードで突き進む彼女とのラブコメ。だが、キスだけはお預け。それは結婚式のときの予約。訳が分からぬまま、けれど知りたいと願い。部活動の一環として鎌倉まで二人でサイクリングで爆走したりする中、譲は彼女の事を知ろうとする中で秘密に触れていく。

 

長女であるはずなのに何故か彼女以外にいる、家の後継者。今まで十人の婚約者がいたけれど誰にも心を許さなかった彼女が時折見せる、影のある顔。そして、過去の記憶の中に揺れる彼女らしき面影。

 

白亜も知らぬもう一人、チンピラに見えて実は気のいい人だった元婚約者、様々な人から話を聞きながら。譲は白亜が隠していた真実、猛スピードの本当の意味を知る。

 

「僕が呼び戻すよ」

 

「呼ぶよ、いつでも」

 

僕らの春は稲妻のように。このタイトルに込められた意味を知る時、きっと胸に刺さる、かもしれない。この作品はまるで稲妻のように駆け抜けていく彼女を彼が命綱となって引き留めようとするようになるまでのお話で。大きなものを越えて未来を見る為に覚悟を決めるお話なのだ。

 

その根底、まさに「愛」。その思いをおままごと、なんて笑う事は誰にもできない。それは正に本物だから。

 

エモい青春を楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

僕らの春は稲妻のように (MF文庫J) | 鏡 遊, 藤真 拓哉 |本 | 通販 | Amazon