読書感想:男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った? ~激重感情な彼女たちが無自覚男子に翻弄されたら~

 

 さて、この世の中には一部の電車において女性専用車両なるものが存在するわけであるが、痴漢防止のためというのが理由らしいが、時々思うのだがあの車両を設けるメリットと朝の満員電車の密度が増すデメリットを天秤にかけると、果たしてメリットの方が本当に勝っているのだろうか。 という、考えてもあまり仕方のない疑問はともかく。男性専用車両、というのはとんと聞かないものである。

 

 

まぁあまり聞かないかもしれない、というか存在しない、筈。ではそんな電車は何処に存在しているのか、というと。所謂貞操逆転世界、ならば存在している事はあるかもしれない。今となっては、ある意味異世界モノのニッチなジャンルの一つとして定着した、貞操逆転世界。簡単に言ってしまえばヒロインが基本肉食な世界。この作品における、主人公である将人が迷い込んだ世界もそんな世界なのである。

 

気が付けば、何やら女性がやけに多い世界に迷い込んでいた将人。元々養護施設育ちであるため身寄り無し、天涯孤独、身一つかと思えば。何故か戸籍もあって、通っていた高校も卒業していて、通う予定の大学への入学手続きも済んでいて。察するにこっちの世界の「将人」と入れ替わっていると思しき現状。拾ってくれたボーイズバーの経営者、藍香の元でバイトしつつ。彼は大学に通い始める。

 

「よかったらさ、俺と友達になってくれないかな」

 

「俺のでよければ、あげるよ」

 

「俺・・・・・・それ全然納得いかないんすよね」

 

 ・・・・・・さて、ここで前提として世界観のおさらいであるが。この世界は男女比1:5、言うまでもなく男性は圧倒的少数。つまり男性は選ばれる、というより選ぶ側。だからか、傲慢だったり上から目線の男も多い。そんな世界で、男女比ほぼ同じの世界から来た将人が、かつての世界に合わせた言動をしたらどうなるのか。

 

それは正に、甘美な猛毒、思考を染め上げる劇薬となるだろう。上からではなく対等に、真っ直ぐに向き合ってくれる彼。そんな彼は、警戒心もなく無防備。つまりは肉食獣ひしめくエリアに、能天気な兎がとことこ歩いているようなものだ。 どうなるのか。犬も歩けば棒に当たる、ではないが将人が歩けばフラグが立つ。どんどん無自覚に女子を落としていく。そして、唯一無二の輝きを持つ彼を独占したくなるのは当然、と言えるかもしれない。

 

大学で出来た初めての友達、恋海(表紙中央)は裏でどんどん恋心を深化させ。公園のバスケコートで出会った少女、由佳(表紙右下)はどうしようもなく彼に惹かれ始め。 仕事と社会に疲れた中で、ボーイズバーで客とホストとして出会ったOL、星良(表紙左上)は彼に癒しと救いを見出して、無意識にストーキングする程にのめり込み。 恋海の友人、みずほ(表紙右上)は彼に助けられた事に運命を感じ、恋海と彼の絆を感じた事で心を揺らす。

 

正しく恋愛原子核、誰が勝ち抜ける、というより取り巻いている他者を認識してもいない。しかしもう、各々の恋心の鍵は開けられてしまった。彼は未だ気付いていない。己に幾つもの重い想いが向けられている事を。

 

ちょっとSF、ちょっとブラック。だけどちょっと笑える中に主人公の格好良さがあるこの作品。重めな愛が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

 

Amazon.co.jp: 男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った? ~激重感情な彼女たちが無自覚男子に翻弄されたら~ (電撃文庫) : 三藤 孝太郎, jimmy: 本