読書感想:デスループ令嬢は生き残る為に両手を血に染めるようです

 

 さて、デスループ、と言えば「死に戻り」、という言葉があげられる読者様も多いであろう。しかし、よく考えなくてもデスループ、というのは耐えがたき痛みを伴うものであり。続けていくうちに絶対に、心がすり減るであろう事は明白である。そう考えると、死に戻りの力を抱えているかの主人公は凄い、のだろう。それはともかく、この作品もまたデスループものである、タイトルからも分かる通り。では両手を血に染める、というのはどういうことか。それはデスゲームに巻き込まれてしまう、と言う事である。

 

 

少なくとも蒸気機関は存在し、封建的な価値観と身分階級による格差も根強い、とある異世界。その世界の、とある王国の伯爵令嬢であるヘルミーナ(表紙右)。 最近、幼馴染でもある少女、シャルロッテ(表紙左)の事が妙に魅力的に見えている中、兄が相続してしまった、百年前に怪事件が起きた古城の「祓い会」に参加する事となり。向かった先の古城で使用人たちに出迎えられ、同じように呼ばれていた婚約者であるレオンハルトとも遭遇する。

 

「・・・・・・要するに、この場にいる八人に、『人間』と『悪魔』の役職を割り当てて、殺し合いを差せようということよ」

 

 しかし、到着の翌日、いきなり事件が巻き起こる。鶏小屋の鳥たちの惨殺、食堂に現れたのは邪神の紋章と、秘儀と呼ばれる儀式が始まった、という事が書かれた紙。更には謎の力で古城は外界と隔離され、彼女達は否応なくデスゲームに参加させられる事となる。

 

さて、何が起きるのか。 一応儀式を中断する条件も書かれた紙はあったものの、すぐに皆の心がまとまる訳もなく。ヘルミーナは投票により処刑される者に選ばれ、容赦なく死を迎える。

 

だが、彼女は巻き戻る。事件が始まったその日に、何度も。その度に分かるのは前回のループ、誰に何の儀式における役職が割り振られていたのか、という情報。ある時は犯人側、としてその手を血に染め。またある時は、生き延びたかと思えばシャルが命を失う結果となり。何度となく繰り返し、その度にシャルに迎えられる中。やがてヘルミーナは、大切なことに気付いていく。

 

「本音でいいわ。あなたの本音が聞きたいの」

 

それは、人狼ゲームで最も大切な事。腹を割って、きちんと本心から話し合うという事。それに基づき、いつも顔を隠している庭師、ウルリッヒの心に迫り、この古城でかつて起きた事件の話を聞き出し。今まで疎み合ってきたレオンハルトと本心で話し合う事で、冷徹に見えた彼の熱い理想を知り、更に彼が供を連れて以前この城を訪れていた、という初めて知る事実を知る。

 

その事実が示すのは、黒幕はすぐ近くにいた、という事。そしてその本心を知り、顕現しかけた邪神の手にかかり、黒幕はヘルミーナの元を去り。 今まで彼女をループさせていた存在とも遭遇し、最後のループが始まる。

 

為すべきことは秘儀の中止、そして黒幕を取り戻すと言う事。今まで知った全員の思いを語り、全員の気持ちを一致させ。 邪神顕現の為のキーアイテムを破壊する為、一人邪神と黒幕の元へ向かう。

 

「いいえ、ここから始まるのよ」

 

その先に始まるのは、新たな人生。今回の一件で大切なものをそれぞれ知って掴んだ彼女達の新たな道が幕を開けるのである。

 

スループの苛烈さとミステリーの中に、親愛を超えた絆があるこの作品。骨太な作品を楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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