読書感想:悪役令嬢の矜持(1)~私の破滅を対価に、最愛の人に祝福を。~

 

 さて、矜持、というものは誰にだってあるだろう。矜持だけではご飯は食べられないし、お金にだってならないかもしれない。しかし、それは生きる上では大切なものなのである。誰しもの心の中に、あって然るべきの心柱、と言えるのかもしれない。ではこの作品の主人公である「悪役令嬢」、ウェルミィ(表紙)の「矜持」とはどんなものなのか。彼女は只、望んだのだ。祝福を、幸いを。それは己の全てを捧げるのを当然とするように。その一念だけで、全ての行動を為していたのである。

 

 

「事の始まりは、君が川に落ちた事だったそうだな?」

 

異世界の貴族、エルネスト伯爵家。その愛人の子として生を受け、本妻の病死により後妻として伯爵家に招き入れられ。義姉となるイオーラを虐げ、彼女から全てを奪い、挙句の果てには冷酷と呼ばれる魔導卿、エイデスへと彼女のみを売り渡した。全てを奪った後はもう不要とでも言わんばかりに。その始まりは、迎え入れられた少し後、川に落ちたウェルミィを助けようとしてイオーラも川に飛び込んだ、という事。

 

それは見方によっては、彼女に対する怨み、でもあるように見えるかもしれない。嫌いだからこそ、全てを奪おうとしているように見えるかもしれない。

 

「お義姉様を、侮辱するな!!」

 

・・・しかし全ては、その逆であった。そも考えてみて欲しい。実父と後妻が支配する伯爵家でイオーラはどう見られるのか、という事を。ただ、ウェルミィは守ろうとしただけ。一番愛する義姉を虐げるもの全てから守る為、敢えて愚劣な悪役令嬢を演じ、全てを奪う事で守り抜いて。彼女を託せると自分が認めた人に、義姉を託そうとした、それだけ。しかし彼女にも予想できなかった事が、一つだけ会った。

 

「私は、彼女の策に乗ってやっても良いかと思い始めている」

 

それは、エイデスも彼女の意図に気付いていた、という事。イオーラに淡い恋心を抱く王太子である弟分、レオニールを巻き込み準備を整え。ウェルミィが自分の破滅まで込みで計画を立てていたのに対し、エイデスは自分とレオニールの願いをそこに乗せ、上手く姉妹だけを救い出す形に計画の方向性を導いて見せたのである。

 

「それに、離れる権利はお前にはない」

 

そこにあるのは正しく愛。人間として誰もが持っているであろう感情。そして矜持。己の心の柱、その方針のままに動き貫いた結果。姉妹にとって望外の幸福な結末は導かれた。だがここからが本番。今度こそ本当に幸せにするために、幸せな義妹の計画が幕を開けるのである。

 

本当に全てを捧げるような真っ直ぐな愛に心を打たれたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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