読書感想:リピート・ヴァイス1 ~悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました~

 

 さて、やり直しものというのはジャンルの一つとして既に確立されている訳であるが、例えばゲーム世界のような、元の歴史が既にある世界の場合であると、主人公が物語の中の登場人物の中に入って、というパターンが多いかもしれない。元の歴史を知っているからこそ、かえられる歴史がある、という事であるのだろうか。

 

 

そしてやり直しもの、と言うのはやり直す事で本来の歴史と乖離し、段々と元の世界の歴史の知識が通じなくなっていく、というのが常で在ろう。と、まぁそんな前置きから察していただけたかと思うが、この作品もまた、そういった、やり直しものの一つである。しかし普通のやり直しものと違う点が二つある。それは別に転生する訳ではない、という事と。やけに早く歴史の乖離が始まると言う事である。

 

「しかも特にぱっとしない敵としてだぞ? あり得ないだろうが」

 

異世界の国に存在するライトレス侯爵家、その嫡男であるローファス(表紙中央)。彼はある日、夢を見る。幾度となく、それこそ現実との区別がつかなくなるくらいに何度も殺される夢を。その夢の中で限りなく浴びせられた罵詈雑言。曰く人類の裏切り者、民を苦しめた悪魔等々。やっと目覚めて、彼の頭の中に叩き込まれていた情報。それはこの世界が大人気RPGを具現化した世界であり、彼は第二の魔王に仕える四天王として割と早々に退場する運命である、という事。

 

「それで良い。行け」

 

執事であるカルロスに慰められ、だがそこに将来の魔王である悪役からの勧誘のお知らせが舞い込んできて。ローファスは早速、動き出さねば、と動き出す。鍵となるのはぶつけられた罵詈雑言。一先ず重税により、という部分が気になり、イベントとして体験した寂れた漁村に行ってみることにし。カルロスを護衛兼御者として連れていくことにし、飛び出していく。

 

かの漁村で起きていたのは、代官による重税と人身売買、更には魔物の活性化という面倒事。何をしているんだ、とキレて代官を折檻、許す条件として魔物討伐に協力しろと半ば脅して。早速、準備を整えて大海原へと乗り出していく。

 

だがそこで待っていたのは、ゲームにおける強敵、「四魔獣」の一体、クラーケン、ではなかった。それどころかもっとヤバい敵がいた。狂暴な海魔達を従える、謎の巨大な空飛ぶ鯨。覚醒したローファスをも容易く追い込んでくるその敵は、ローファスの記憶にも、それこそゲームの中の世界には確認されてすらいない強敵。

 

「俺は俺の為にやっている。勘違いするな下民が」

 

だが、どれだけ傷つこうとも。消えぬ呪いを背負わされようとも。ローファスは知った事かと許容して、ただ己の為に自分勝手に突き進む。結果的にそれが活躍、正道となり。本来ならば彼を憎むことになるヒロイン、フォル(表紙左)やお付きの騎士であるユスリカ(表紙右)の心をときめかせて。新たな道を切り開いていくのである。

 

真っ直ぐに熱く、時にくすりと笑える、かもしれぬこの作品。反省しないある意味小物な活躍が見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

リピート・ヴァイス 1~悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました~ (HJ文庫 く 08-01-01) | 黒川陽継, 釧路くき |本 | 通販 | Amazon