読書感想:昔の男友達と同居をはじめたら、実は美少女だった1 ~距離感があの頃のままで近すぎる~

 

 さて、昔の男友達が実は美少女だった、というパターンで始まるラブコメが最近、ニッチながらに少しずつ増えてきている気もするが私だけだろうか。そもそも何で昔に気付いていないんだよ、というツッコミを入れたい読者様、少し待っていただきたい。皆様、本当に幼少期に遊ぶ相手の性別を気にされた事はあるであろうか? また幼少期であれば、女子も服装に無頓着であった頃があった、かもしれないだろうか?

 

 

と、まぁそんな始まりから始まるこの作品。昔の男友達、であればかのスニーカー文庫の作品を思い浮かべる読者様もおられるかもしれない。しかしこの作品において明確に違う点がある。それは幼馴染としてのリスタート、そして義兄妹としての新たなスタートから始まるのである。

 

父子家庭で育っている少年、圭介。中学時代のとある経験から、ぼっちな陰キャであろうと務める彼の友達は、そんなにいなくて。それでもいいと思う中、ふと思い返すのは幼少期の親友、「まーちゃん」。また明日、の約束を交わしながらいきなりいなくなった相手。あの子がいたなら、寂しくなかっただろうな、とは思うけれど。今、あの子は隣にはいない。

 

「久しぶり。昔のまんまだね、けーちゃん」

 

そんな彼の元に舞い込んできたのは父親の再婚話。その連れ子として現れたのが真咲(表紙)。あの頃は気づかなかったが、「まーちゃん」の正体である。

 

いきなり始まる同居生活、自分ではない他人が傍に居る落ち着かない時間、の筈だった。しかし真咲はあの日の距離感のまま、男と女という距離感を意識させない接し方でぐいぐいと来る。自分だけが意識している、のかとちょっと戸惑ったりしながらも、元通りの友情を取り戻すまでには一瞬で。学校にも同級生としてやってきた真咲と、距離の近い日々が始まる。

 

「情けないことなんてないよ」

 

意識していく距離感。だけど、真っ直ぐな真咲の心は、優しさは。いつの間にか圭介の心に入り込んで癒していく。彼女がいてくれた事で、過去のトラウマを乗り越える事も出来て。

 

「自分の気持ち、ちゃんとわかってんじゃん」

 

「俺じゃ頼りないかもしれないけどさ。真咲だけを闘わせたりしない」

 

腐れ縁な女子に指摘される、己の思い。変わっているように見えて変わらなかった、根底の思い。戦うのは彼女だけではない、守るのは自分の役目、その思いを真っ直ぐに思い出して。真咲に迫っていたストーカーの影を跳ね除けて。 今まで籠るだけだった自分から一歩踏み出して。変わる一歩を踏み出していくのである。

 

だけどまだ、致命的に。ほんのちょっと思いがずれている故に、肝心なところで噛み合わぬ。そんな二人が噛み合う日はいつか来るのだろうか。

 

ふんわりとした温かさと、変わらぬ絆の甘さが光るこの作品。家族ものな面白さを楽しんでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

昔の男友達と同居をはじめたら、実は美少女だった 1 ~距離感があの頃のままで近すぎる~ (オーバーラップ文庫) | 遠藤 遼, かふか |本 | 通販 | Amazon