読書感想:透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。

 

 さて、打ち上げ花火下から見るか、横から見るか、という話題はともかく。 画面の前の読者の皆様は、打ち上げ花火というものを最後に見上げられたのはいつであろうか。最近は新型コロナによる制限も終わり、徐々に観客も解禁されている訳であるが。是非に一度は、視界一杯に収まりきらぬ程に広がる花火、というのを見てみると良いかもしれない。きっと心が洗われる、という感覚が分かる筈なので。

 

 

さて、というのはともかくとして。この作品は「花火」、というのが重要な要素になってくる、というのをご承知いただきたい。主人公とヒロインを繋ぐのが、花火であるので。

 

「いつか友達と、打ち上げ花火、してみたいんですよね」

 

大学生となって、四月。 大学生活の為に上京してきて、大学から徒歩一分の学生寮に住む内気な青年、かける。 ルームメイトである潮に連れ出され参加した合同新歓コンパにて、彼は美しすぎるあまりに遠巻きにされていた、まるでモデルのような彼女に出会う。彼女の名は、小春(表紙)。しかし彼女が遠巻きにされていたのは、美しすぎるからだけではなく。彼女は盲目であり、故に遠巻きにされていたのだ。

 

「やさしいですよね」

 

だけど、彼女はそんな事は関係ないと言わんばかりに。不自由なりに工夫し努力して。彼女の友人でもある優子に助けられながら、何も他の皆とは変わらない日々を、透明なもやの中で生きている。

 

そんな彼女の夢、それは打ち上げ花火を見る事。ひょんな事からその夢を応援することになったかける。自分の事をわかってくれて、一緒に居てくれる彼の事を、小春は少しずつ好きになっていく。心の中にぐちゃぐちゃな思いが溢れ出し、それでも伝えたいと手を伸ばそうとする。

 

だけど、神様は時にこうも残酷だ。 彼女の身体を蝕む大病が再発し、かけると引き離される事となり。かけるが辛くないように、と彼女は必死に彼を突き放そうとする。

 

「ちょっと用事できました」

 

そんな彼の元、舞い戻ってくるのは小春が無くした筈のしおり。そこに書かれていたのは、叶えたい夢。だけどそれはまだ、全部叶っていない。だからこそ、叶えたい、叶えて見せる。気が付けばずっと一緒に居た彼女の為に、もう迷わない。優子や潮も巻き込んで、打ち上げ花火をあげるためにかけるは奔走する。

 

「ひとりで笑うのってさ、むずかしくない?」

 

一人じゃ笑えない、一人で笑うのは難しい。だけど二人でなら。何でも言いあえて、交わし合える二人なら。そんな二人がいい、と真っ直ぐに伝えて。もう一度二人の関係は結ばれる。

 

その先に描かれるのは、かけるの、小春の、優子の、潮のそれぞれの人生。 それぞれが思うものを、抱えて。時に迷い、見失って。時に空を見上げて、中々会えなくなった友の事を思いながら。

 

「どこか遠くへ行く、あなたを信じます」

 

そして、花火に憧れて。まるで花火のように空を駆け抜けていった小春を想い。かけるもまた、笑って歩き出していくのである。

 

それぞれの人生が、火薬の玉のように交じり合って咲く群像劇の中、鮮烈に儚く、けれど真っ直ぐに花火のように一瞬を駆け抜けていくこの作品。 なるほど、正に最も不自由で自由な恋のお話だ。

 

そしてこの作品は、そんな恋から続く人生のお話であり、愛のお話である。だからこそ、この作品に込められたものが突き刺さったのならば。きっと涙するはずだ。

 

 

泣ける、綺麗で透明なお話を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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