読書感想:白いドレスと紅い月がとけあう夜に

 

 さて、時に画面の前の皆様は白いドレスと聞いて何を連想されるであろうか。やはり大多数の皆様は、ウェディングドレス、と答えられるのかもしれない。実際、白だけなら連想される方向性は多岐にわたるのかもしれないがドレス、という指定が付くとウェディングドレス、という方向に収束していくことが多いであろう。ではこの作品のタイトル、白いドレス、そこにとけあう紅い月、とは一体何なのだろうか? これよりそれを見ていこう。

 

 

まず初めに言うと、この作品はミステリである。しかしヒントはきちんと明示されているので我々読者からしても推理のしやすい物語である。それだけではなく。その解きやすいミステリに絡むのが、恋愛要素のがっつり入った百合なのだ。

 

人間と魔族の千年の争いが、勇者が魔王を討伐して終結して四年。人間側の統一国家の国王になった勇者により、人間も魔族も統治される世界が訪れ。だがそう簡単に領主族の蟠りが解けるわけもなく。ほぼ全ての街で人間と魔族の住みわけが行われる中で。吸血鬼であるブラム伯爵の治める街においては例外的に、人間側の商人が少しだけ住み着いていた。この街の治安を維持するために人間側の組織として作られたのが「特務隊」。大剣使いのローズ、プリーストのレイチェル、スナイパーのルゥ。そして精銀刀を用いる剣士のリン(表紙右)。彼らの主である聖職者サラは、ブラム伯爵とお互いが要る限りお互いの種族は傷つけあえないと言う契約を交わし。一つ、緊張状態が築かれていた。

 

「自分でも、今の社会が正しいとは言えないと感じている」

 

そんなある日、均衡を打ち破るかの如く起きてしまう、事件が。リンとルゥが酒場に立ち寄りつつの見回り帰り、特務隊の詰所からレイチェルが走り去るのを目撃、嫌な予感を感じ詰所に行ってみれば発見したのは、血だまりの中に立つ吸血鬼の少女、ラヴィア(表紙左)と首のないローズの死体。 自分は犯人ではないというラヴィアをまずは捕らえるも、不注意でリンが血を吸われラヴィアは蝙蝠に姿を変え逃げてしまい。しかしリンは、彼女の目の中に殺意が見えなかった、と犯人とは断ぜず捜査に戻り。ブラム伯爵の元にとりあえず行ってみると彼女は勘当され、追い出されたと教えられ。町はずれの森に住む、デュラハンの警備隊長であり友人のロゼッタの名を知る中。再び侵入してきたラヴィアを捕らえ、改めて話を聞くことに。

 

「だとすればおそらく・・・・・・我々も会ったことのある人間だろうな」

 

聞き出せたのは、どうもロゼッタは人間の、それも特務隊の制服らしきものを着た人間に身体を奪われてラヴィアは怒りに駆られそれを取り返しに来たと言う事。だが話を聞いたリンは、ラヴィアが訪ねた時、暖炉の炎が燃えていたという首だけでは困難な事から胴体は無くなってなどいないと推測、更にロゼッタは種族を偽り自分達の傍に居たのではと推理し。ラヴィアの歯止めとなる為に自分以外の血を吸わないという契約を交わした後、皆でロゼッタの家に向かってみることに。

 

そこに合ったのはレイチェルの首。いきなり何者かに家ごと燃やされそうになるも、その場に現れた伝説の金狼に救われて。リンはサラに一先ず、ローズ殺し、という事件の真実を語り、ラヴィアを自分の手元に置きながら捜査を続けることに。

 

「もう、誰もあんな目には遭わせない・・・・・・」

 

ラヴィアとの共同生活、もとい咄嗟の嘘から始まった夫婦生活の中、魔族と人間の垣根を超え少しずつ近づいていく心の距離。リンの慚愧の念にラヴィアが触れ、彼女の中でも思いが変わり始める中。 ラヴィアの匿われていた詰所が放火され、彼女が姿を消し。リンとルゥがブラム伯爵の犯行と結論を出し、伯爵家へと突入、伯爵を討ち取る。

 

「ほう、ようやく気付いたか」

 

そこで明かされるのは本当の黒幕。その狙いは、伯爵家の地下に封印されていたもの、魔法の元となる神、その身。 黒幕の護衛だったロゼッタはルゥに任せ、リンとラヴィアは黒幕を追い、死んだふりだったブラム伯爵も復活する中。黒幕の狙いは為り、神、我々もよく知るかもしれぬ異形の神が目を覚ましてしまう。

 

乗り越えるために、戦う。その中、リンの想いを受けたラヴィアは己の力を解き放ち。リンもまた、いつの間にか変わっていた身で剣を振るう。

 

「ああ、これでいつ死んでも悔いはない」

 

その先に待っているのは、誓いの儀式。二人思いを交わして、永遠を誓って。死でも別たれぬ絆となるのだ。

 

蕩けていくような百合と、推理しがいのあるミステリーがあるこの作品。ラノベミステリに入門してみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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