さて、生き方も考え方も違う人種の共存、というのは口で言うのは簡単であるが、実際の所はとても難しいものである。特に、その人種同士が戦争等をしていた場合は。そして戦争の後には復興しなければならない、しかしそれもまた簡単ではない。戦争と言うものが大規模で長期化するにつれ、一度崩壊した社会性等は立て直すのは難しい、というのは某売国機関辺りを読んでいただければわかる、と思われる。
そしてラノベにおいては、人種同士の戦争が起きた場合というのは共存の為の実験都市が作られる事が往々にしてあり。そして、その実験都市は大体混沌とする事が大半なのだ。
この作品における都市、「ニルガ・タイド」もまたそんな実験都市の一つである。人類と魔族の戦争が、勇者タイディウスと魔王ニルガラの結んだ和平条約により終わり、建設された都市。しかしニルガラは行方不明となり、この街は魔王に次ぐ力を持った七柱の魔族、通称を「僭主七王」のそれぞれの會が幅を利かせていた。
「この街は、ちょっと事情が複雑でしてね。ご存じでしょう?」
「それでは正義を証明できない」
魔王はもう、いない。この街を今、支配しているのは力。共存と言っても、多大な力を持つ魔族が幅を利かせるのは必然。この街を今、混沌に突き落としているのは数か月前、七王の一人が斬殺されたという事件。この街に今、かつて聖剣を生み出し今は司法機関である「不滅工房」から捜査官として勇者の娘、アルサリサ(表紙右)が派遣され。この街の騎士団の中でもお荷物な四課の一員、通称を「なまくら」の捜査官、キード(表紙左がその案内人として補助につく。
だが、この凸凹コンビがそう簡単に上手く行く訳もなかった。この街の正義も方も知った事か、と自分の正義を貫こうとするアルサリサはキードにすら信じられぬと牙を剥き、キードはキードで、捜査の為なら事件も起こすアウトローな道を突き進む。
そんな二人は捜査のために七王たちの元へ向かうも、行く先々で事件が起きてその渦中にいつもいた事で、結局犯人ではないかと疑われ。更にはアルサリサの旧知の相手らしき謎の影も垣間見える中、都市そのものを敵に回すような事態へ陥っていく。
事件の裏、本当の黒幕はいなくなった魔王を信奉する組織。しかしその組織すらも、隠れ蓑に過ぎぬ。本当の黒幕は全てを裏切り、ただ魔王を取り戻すためにこんな事態を引き起こしている。
「あとは、俺たちでやっていかなきゃならねえんだよ」
だけど、魔王がもう戻ってくる事はない。何故か。それはキードだけが知っている。魔王を知り、その後を継がんとする彼はアルサリサと共に黒幕と戦い。本格的にこの街に着任した彼女の裏、何かを目論んでいるのだ。
骨太でダークなクライムが拝めるファンタジーなこの作品。ずっしりと来る作品を読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 魔王都市: -空白の玉座と七柱の偽王- (ガガガ文庫 ガろ 2-1) : ロケット商会, Ryota-H: 本