読書感想:かくて謀反の冬は去り

 

 さて、「謀反」と言う行為は歴史上で言うならばかなり古い、それこそ歴史の教科書の割と最初の方にその言葉は載っているであろう。日本で一番有名な謀反、と言えばやはり「本能寺の変」になるのだろうか。大河ドラマ織田信長徳川家康明智光秀と言った面々がメインとなって描かれるたびに描かれるその謀反は、脚本家の味付け次第で異なる描かれ方をする事が多い。何の因果か、今年の大河ドラマも明日が「本能寺の変」の回である。

 

 

といった話題はさておき、この作品における「謀反の冬」とはなんなのか。それを今から見ていきたい。

 

舞台となるのは、古代的な世界観と近代的な文化が一体となったとある世界。かの国のとある王国、兄である王の近衛隊長として就任した王子、奇智彦。何の神の悪戯の因果か、半身に障害を持って生まれ。王室の忌み子として裏では蔑まれる彼。そんな彼の元に、先まで争っていた帝国から貢物として届けられたのは、犯罪者である奴隷、シニストラ(表紙)。一つ上の兄である空軍大佐、鷹原公と押し付け合いになり結果的に押し付けられて。保護民として「荒良女」という新たな名前を与え。従者の石麿、咲、後から保護した盗賊、打猿も加えて。荒良女に振り回され、時に鉄火場に巻き込まれながらも。彼の日々はつつがなく進んでいた。

 

 だがしかし、全ては一気に裏返り、混沌の時を迎える。王である兄の急死、犯人として疑われる、更には早急な命題がある。それは次の王が誰なのか、という事。それによって次第では、彼は即座に処刑、という鬱き目に遭うのは確定。

 

「王とは、意志とちからを兼ね備えたものでなくてはならぬ」

 

それはまた、他の王族とて同じ。故に巻き起こるのはパワーゲーム。王と言うものに誰が成るのか、狐と狸と蝙蝠の化かし合い。その議論を彼は悪辣に誘導し、気が付けば望んだ成果を最後に総取りしていく。

 

だが、まだ解決すべき問題はある。それは兄王の急死、その真実。そこに隠されていたのは、犯人の思惑。だけどそれは、誰にとっても予想外の方向に歪んだものであり。本当に狙われたものと犯人は、また別にいたのだ。

 

その全てを飲み込み、平らげて。王の名代として立つものがいる。既に間違っている、だけどそれでも進み続けることを決意したものは一人、全てを掌の上で転がしながら歩き始めるのだ。

 

 

正にスペクタクル、何度も読まねばわからぬ、故に何度も読みたくなる陰謀劇が繰り広げられている今作品。何処にもない世界観と物語を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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