読書感想:奇世界トラバース2 ~救助屋ユーリの迷界手帳~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、私は散々と前巻の感想でこの作品には魅力的な世界が溢れていると言う事を説明したかと思う。その魅力は今巻も変わらず、それどころか深まっていると言ってもいい。では今巻では迷宮探索の中に、どんな物語が待っているのか。それは、作品の主人公であるユーリの過去。仄めかされてきた、彼の過去に一体何があったのか、という事である。

 

 

前巻の顛末の後、何だかんだとアウラはユーリの元に居候を決め込み。ユーリも何だかんだと小言を言いながらも引き離せず、特に名前もない関係を続ける日々が続く。

 

 こんな日がずっと続くと思っていた。しかし、その予感は嘘である。ある日買い物の途中で見かけた、ユーリに絡む謎の他国の冒険者達。その顛末を見た後、ユーリは一人、解放された大迷宮、「クレティシア」へと探索隊に紛れ潜っていく。そこは幾度となく挑戦が繰り返されながらも一度も踏破されぬ多層的な樹海の大迷宮。ユーリがかつての仲間達を喪った現場である。

 

アウラもまた彼を連れ戻す為に、密航と言う形で彼を追い。しかし彼は、かつての仲間達が遺した探索のデータを残した手帳、「イェーガー・レポート」を持つことで、追われる身となっていたのである。

 

彼を追うのは、かつて彼の所属する隊に探索を依頼した国、カルタゴだけではない。第6ゲートを保有する国、コモンズの特務隊、その隊長である最強の一人、カナリアもまた。彼を追い、大迷宮で国同士の暗闘が巻き起こる。

 

そんな彼等を覆い、包み込むようにして広がるのは樹海の大迷宮。全ての動植物が敵となり、一日前の地図が明日には役に立たぬ大迷宮。

 

何度となく彼に引き離されながらも彼を追い。国同士の激突に紛れ逃げ、時に追跡部隊と激闘を交わす。

 

その最中、過去の記憶を垣間見る自然現象によりアウラに過去の真実が明かされ。彼女の導きによりユーリは隊長の真実に触れる。今まで自分を置いて行ったと思っていたばかりの、その隊長が何を想い、最後にはどうしようとしていたのかと言う事。

 

隊長が遺した最後の情報、それはカナリア達追跡部隊と戦う切り札となる。この樹海の秘密を解き明かし、まるで指揮者のように世界全てを味方につける鍵となる。

 

「今はまだ、もうちょっとだけ・・・・・・寄り道、してもいいよな?」

 

『道草を楽しみなさい』

 

 戦いの先、御伽噺に隠されていたユーリにしか解けぬ真実を解き明かし。その報酬として示されたのは、最後の道への扉。だが、最後の未知へと挑もうとするユーリをアウラは涙ながらに身勝手に引き留め。その生き方に隊長の言葉を想い。ユーリは今しばらく、道草をする事を決めるのである。

 

この作品で語られるのはここまでである。でも、まだこれからも彼等の冒険は続く。その先にはもっともっと、未知なる世界が待っている。

 

だからこそ、その道程に幸いを、と。そう願いたくなるのが今巻でありこの作品なのである。