読書感想:許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?

 

 さて、突然ではあるが「悪役令嬢」という言葉を聞かれて画面の前の読者の皆様はどんな存在を思い浮かべられるであろうか。いけ好かない、嫌味、高圧的。ネガティブなイメージが多いかもしれぬ「悪役令嬢」という存在であるが、最近はそんな存在を主役にしている作品も増えている次第であり、ヒロインとして幸せになる作品も増えている訳である。だが、そういった作品は大体異世界が舞台であることが多く。故に悪役令嬢と異世界を関連付けて覚えておられる読者様もおられるのではないだろうか。

 

 

だがしかしこの作品は、現代日本で展開されるラブコメである。無論、ヒロインである「悪役令嬢」、彩音(表紙)は異世界からの転生者、という訳ではない。この作品における「悪役令嬢」と言うのは言わばあだ名なのだ。

 

 ではこの作品は一体どういった作品なのか。一言で言ってしまうのなら「王道」ラブコメと言える作品である。

 

「来週から浩之、許嫁と暮らすから」

 

元バスケの国体選抜候補、しかし今は気楽な帰宅部。父親は鳴かず飛ばずの中小企業の社長であり、京都の名家の結構枝分かれした先の分家出身である以外特徴もない少年、東九条浩之。彼の平凡はある日、父親の衝撃的な一言で破られる。

 

「よろしくお願いね、許嫁さん」

 

「・・・・・・よろしく、許嫁」

 

 それはかつて父親の会社が倒産の危機に陥り、実業家上がりの成り上がりの家に助けられ、その条件として許嫁が決められていた、つまりは身売りにも近い政略結婚。あれよあれよと言う間に彩音との面通しが済み、一先ず断る訳にもいかず。結果として二人は高級住宅地のタワマンで同棲生活を始めるのである。

 

彩音からの思いはゼロ、浩之からの思いは-かもしれぬゼロ。しかし生活が始まり結果として共に過ごす時間が増えていく中、浩之は「口と性格が壊滅的に悪い」彩音の本当の姿を見ていく事になる。

 

何でも出来るように見えて、実は包丁の持ち方も分からぬ程に生活能力が無かったり。

 

口の悪さを自分でも自覚し、そこに思い悩んでいたり。

 

実は読書が趣味で多数の本を読んでいる、本の虫の気があったり。

 

浩之がそんな姿を目撃していく中、彩音もまた浩之の側に居る事に楽、という感情を見出していく。飾らぬ自分を受け止めてくれる彼を通じ、外の世界と関わる事で。少しずつ悪役令嬢と言う氷の仮面の裏の、本当の思いが氷解を始めていく。

 

「貴方の後ろを歩きたいんじゃないの。私は、貴方の隣を歩きたい」

 

 時に諍いに巻き込まれ浩之に庇われて、浩之の知らぬ一面を知って。悪役令嬢としてではなく、彩音という一人の少女としての思いで。彩音は徐々に前を向いていく。その心の中に新しい思いが芽生えていく。

 

それはまだ名前もない華、けれどいつか咲き誇るかもしれぬ華。その芽生えはきっと、来るはずだ。

 

王道ど真ん中、もどかしく進む甘酸っぱいラブコメである今作品。真っ直ぐなラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。