読書感想:異世界転生事件録 人見知り令嬢はいかにして事件を解決したか?

 

 刑事コロンボ、刑事七人、相棒。この三つのドラマに於ける共通点はお分かりかと思うが、刑事、という事である。ドラマでは時に犯人と格闘したり、犯人に拳銃を向けたり、犯人に説教して追い詰めたりする事もあるが。実際、刑事の仕事というのはチームで行うものであり、足を使って捜査する、というのが基本のようなので。

 

 

ではそれは、この作品においては何か関係があるのか。それは、この作品における主人公、異世界の侯爵家の令嬢であり、第三王子とも婚約が決まっている少女、セラ(表紙)の身に巻き起こった事件に関係がある。

 

「しかたないさ。こんな幼い子供が死ぬよりは、よっぽどいい」

 

その事件とは、彼女の毒殺未遂。一週間ほどの昏睡状態から目覚めた時、彼女の人間性は変わっていた、それは何故かと言うと。 何の因果か、彼女の中には日本で仲間を庇い殉職した刑事、竜胆の魂が憑依していたから。今は彼が主人格であり、セラの人格は眠っている。そして彼女が目覚めたら、自分は死ぬかもしれない。だとしても、と大人の矜持を貫き、刑事としての生き方で。セラ、もとい竜胆は自分を殺そうとした犯人を探し出すべく侍女であるセシルを協力者に、捜査を始める。

 

状況的には内部犯以外ない、絶対にこの家の中に犯人がいる。一家の家長である父親のヘルマン、優しい母親のノーラ。次期後継者であるリチャード、そしてその補佐である次男のアントニオ。だが現状、家族にはセラを狙う動機がない。ならば内通者がいるのか? その事に関して探りつつ、生きている以上はまた狙われると言う予想の元に。騎士達の訓練に混じって、身体を鍛え始めたり。毒が仕込まれた、という仮定の下に市井を探る中で、腕は一流なれど怪しいちびっ子体形の錬金術師、ライカと知り合い、日本で使った道具の開発を依頼したり。

 

 

刑事としての捜査に必要な道具を集めていくセラに、再び刺客は差し向けられる。セシルの頑張りもあり、何とかそれを乗り越える中。今までに集めた捜査結果をまとめ、見直す中で。点と点を別のつなぎ方をする事で、セラは知りたくもないだろう真実が見えてくる。

 

この事件、実行犯はそもそも慎重に過ぎる性格。そしてその裏にいる黒幕は、確かにこの家の中にいる。

 

「もう一度聞きます。なぜ、こんなことを?」

 

そして、その動機は。彼女達の生きる貴族社会だからこその問題。本人の意見も関係なく定められてしまった、人生のレールに問題があったのだ。

 

 

本性を表す黒幕、激突を制するのは異世界の力。そして竜胆はセラと入れ替わり彼女の中で眠りにつき。セラは竜胆の記憶から手に入れた新たな聡明さと共に、歩き出す。

 

だが彼はこの世界に残っている。ならばもし、新たな事件が起きたとしたら。彼の出番がまた、来るのかもしれない。

 

手軽に読める、すっきりとする推理が味わえるかもしれぬこの作品。手軽に読める推理ものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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