さて、一説によると作家の方々は経験した事しか書けない、らしいが実際の所はどうなのであろうか。それが事実であるとしたら、割と多くの作家様の人生経験がとんでもない事になりそうではあるが。それはともかく、人と違うと言う事は実際、生きづらいものかもしれない。人と違い過ぎると、理解してもらえない。理解してもらえない、というのはそれだけ孤独を招く。だからこそ人には、理解者が必要なのだろう。
大卒新人編集者、そしていきなりブラック企業に捕まり社畜まっしぐらの青年、レナ。まだまだ見習である彼が編集長から押し付けられたのは、歴史神話や古代文明を題材にした作品が得意である、先輩編集者曰く事故物件な「くぅぱぁ丼」先生。拒否権もなく先生の元に送り込まれ早々、一人暮らしのアパートが焼失すると言う非常事態に襲われ。「くぅぱぁ丼」先生から手を差し伸べられ、差し入れ片手に一先ずその家へと向かう。
「私は、異世界を実際に見たことがない。だから、異世界に興味がないのだ」
・・・そこで待っていたのは、久しぶりの再会である従妹のシエル(表紙)。極度の感染恐怖症であり、様々な地雷を持っているが故に引きこもりの自称、天才漫画家。しかし彼女は求められる異世界ものを体験した事がないから書けないと宣う。制限時間も迫る中、一先ず異世界モノのアニメで学ぼうとするも効果がなく。焦りが募る中、二人はひょんな事から異世界へ転移してしまうのであった。
魔物も魔族も存在し、冒険者と言った存在もいて。割とテンプレ的な異世界。元の世界との時間差もそんなにない、しかも割と行き来自由であると判明した事で、この異世界を取材対象とし、二人で新米冒険者として冒険を繰り広げていく。
強大な魔物を封印したり、奴隷市場をぶっ壊したり、現地人である魔術師、スモールと仲良くなったり。異世界を満喫するシエルの目は、徐々に興味で輝いていく。目の前に広がる非日常、異世界へとのめり込んでいく。そんな彼女を編集長は悪し様に言い、対話なぞ不要と言わんばかりに切って捨てるその様に。唯一の理解者であるからこその怒りをレナは抱き、犯罪上等と言わんばかりに編集長に食って掛かる。
「私はミザールとアルコルはほんものの『連星』だと信じている」
そんな彼だからこそ信じられる。理解者でいてくれると理解できる。どちらかが欠けていても成り立たない、あの日見上げた連星のように。あの日離してしまった絆をもう一度繋ぎ直して。シエルはレナのサポートの元、魔王にまで取材を申し込み新たな作品を仕上げていくのである。
曲者過ぎる、何処かで見たようなヒロインが元気に動き回る、春日みかげ先生の味に満ちた今作品。先生のファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
天才少女、桜小路シエルは異世界が描けない (電撃文庫) | 春日 みかげ, Rosuuri |本 | 通販 | Amazon