読書感想:召喚士が陰キャで何が悪い1

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は他者とのコミュニケーションは得意な方であろうか。得意である人もいるであろうし、得意ではない人もおられるかもしれない。しかし、コミュニケーションをする上で大切なのは案外、心を開くという簡単な事であるかもしれない。他人の態度は自分の鏡写しと言うのならば、そもそも自分が敵意を以て武装していれば、相手も武装するしかないのである。

 

 

トラックに撥ねられ異世界転移、そんな時代も最早ひと昔前な作中世界に於ける現代。異世界と日本の間に道は開通し、異世界は人々に身近な存在となり。まるでゲームのような異世界と現実世界を自由に行き来する事が可能となっていた。

 

 そんな世界の片隅で、日々冒険に励もうとする少年が一人。彼の名は透(表紙中央)。異世界においては「召喚士」のジョブを持つ少年である。しかし彼には二つの問題があった。それは、まず彼は自他ともに認める「陰キャ」であるという事。そしてもう一つは、彼には肝心の「召喚獣」がいないという事である。

 

クラスの中心である陽キャは敵、かつて何も考えずに助け、その時から好意を抱いてくれた少女、伶奈(表紙左)からの告白は罰ゲームとしか見えない。誰とも交わる事もなく、己の道を行く透。

 

 己にできる事は採取と調合のみ。日々地道に冒険とも言えぬ冒険を繰り広げる中、調合が得意な少女、沁子を拾い雇用し。異世界の実力者、リディア(表紙右)と出会い。自身を選びついてきてくれようとする一匹の魔物を手に入れる為、金策の為の冒険が幕を開ける。

 

「俺は、俺の力で、お前を手に入れる」

 

与えられた力では意味がない、それこそは陰キャの矜持。自分の力で手に入れるからこそ意味がある、だからこそこれまでにも増して金策に励んでいく。

 

「俺、最低だったな。ごめんな」

 

その最中、危機に陥り伶奈を助け、助けられ。今まで敵だとしか思っていなかった陽キャに牙をむくのをやめ、自分の卑屈さと最低さを認めていく。まるでハリネズミのように武装していた己の殻を脱ぎ、本心で彼等に向き合っていく。

 

「強く、なろうな」

 

 この作品は、今巻だけで見れば何も始まっていない。エピローグでようやく始まったばかりと言える。しかし、そこに至るまでの過程は全てが大切なものであり。その過程を通じ、透という少年が成長していくその様が独特の熱さと面白さを持っているのもまた確かなのである。

 

故に、大きな枠組みの中でこつこつ頑張る作品が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

そんな貴方であれば、きっと満足できるはずである。

 

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