読書感想:男嫌いな美人姉妹を名前も告げずに助けたら一体どうなる?

 

 さて、ヤンデレというのは時に愛の形として歪んでいるという書かれ方をする事があり、重い愛の筆頭として描かれる事もある、というのは画面の前の読者の皆様も恐らくご存じであろう。しかしそこにあるのは間違いなく愛、なのも確かである。故に、その愛を受け入れる器がもしあるのなら、それは純愛に変わる、と言っても過言ではないのかもしれない。

 

 

そういう意味では、この作品の主人公であるごく普通の少年、隼人には受け入れる器があったと言えよう。器、というと少し違うのかもしれないが。

 

ハロウィンが迫るある日、彼は家の近所に住む美人姉妹の級友の家の扉が不自然に開いているのを目撃し、覗き込んでみれば強盗に押し入られているという絶体絶命の危機を垣間見て。勇気を出して、ハロウィンの為に準備した南瓜の被り物を被り玩具の武器を手に乗り込み、奇襲の効果も相まってか、無事に姉妹とその母親を救い出すことに成功する。

 

「本当に・・・・・・本当によかったよ」

 

被害者たちへの気遣いもあり、最後まで正体は隠し通し別れ再び始める日常生活。しかしほどなくして美人姉妹との縁はまたつながる。姉である亜利沙(表紙左)の告白現場を妹である藍那(表紙右)と共に目撃し、空き教室での語らいの中で再び藍那を助け。更にはハロウィン本番、街角でばったり遭遇した事で亜里沙に対しても正体が露呈する。

 

「欲しいよ・・・・・・隼人君が欲しいよぉ」

 

「・・・・・・素敵だわそれ♪」

 

―――それは愛の始まり、しかし彼が期せずして開いた愛の扉の奥に隠れていたのは、ちょっと歪んで重い愛。今まで男の負の側面ばかりを見て来て幻滅していた中で出会えた、唯一の存在。藍那と亜利沙は二人して、隼人へと恋を通り越した気持ちを向けだしたのである。

 

藍那は彼と結ばれ、子を設ける事を望み。亜利沙は隼人へ隷属する事を望む。恋を知り女として開花し、二人は重い愛を彼へと向ける。

 

「あたしたちの愛で隼人君を沼に沈めるの♪」

 

だがある意味幸運だったのは、隼人に二人分の愛を受け入れる器、否、渇きがあった事なのだろう。彼女達の家に招かれ母親である咲奈も交えた夕食の中で見せた見知らぬ雰囲気、その後に知った、両親と死別しているという事実。その心を知り、二人は協力し隼人を愛の沼へ沈める事を選び、逃れられぬ巣を作り始める。

 

愛の沼へ沈めるかのような愛の豪雨、だがそれが染み込むのは隼人の心という永遠の雨すらも飲み込む砂漠。心の何処かで求めていた温もりに浸され、日常生活を少しずつ共にするようになって。隼人の心の中、二人への思いが高まっていく。

 

溺れて欲しい、溺れ始める。けれどそれでいいのか、それだけでいいのか。

 

「ずっと与えられるだけじゃダメだ」

 

それだけでいい、訳はない。だからこそ二人の告白を真っ直ぐに受け、隼人は決意を固める。2人に愛を返す事を、頼られるような立派な男になる事を。そう、彼は自分の意思で選んだのだ。その愛に捕まり溺れる事を、二人を同時に選び愛する事を。

 

失礼ですね、愛ですよ。純愛ですよ。そう言わんばかりに重くも真っ直ぐな愛が向けられるのを、重めなバックボーンがあるからこそ受け入れられる。それが重くても心を溶かす程の甘さを出しているこの作品。甘い愛に溺れたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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