読書感想:俺にだけ冷たい友利さんに裏アカ知ってると言ったら?

 

 さて最近、すし屋での迷惑行為の動画がネット上で拡散され大炎上を招いた上で事件化されたという事があった訳であるがそれは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。そのような炎上は俗にいう「デジタルタトゥー」となり、ネット上に半永久的に一生、残り続けてしまう。故にネット上に何かを自分の意思で投稿する際は、十分に気を付けなければいけないのである。

 

 

この作品もまた、タイトルから分かられるであろう通り、SNSが重要なファクターとなっている作品であり、「つながり」というテーマが根底に込められている作品なのである。

 

有数の名門校、そこに所属する文武両道なクラスの委員長、梓(表紙右)。委員長として皆から頼られ、「みんなの友達」として誰とでも打ち解ける。しかし彼女には一人だけ、打ち解けぬ相手がいた。

 

「私の口が悪くなるのは、鍵坂くんだけだから」

 

《ああ、やっぱりKくん、好き》

 

 その相手である、学年一位の秀才、君孝(表紙左)。勉強以外にやる気がない彼にしか向けぬ、口喧嘩という名のじゃれ合いが如き毒舌。しかし君孝は知っている。誰にも知られていない彼女の裏アカ、そこには自分への恋が溢れているという事を。

 

つまりは素直になり切れぬだけなのである、まぁ何とも難儀なことに。素直になり切れず毒舌を放ってしまい、後で自己嫌悪に陥ったり。またある時は君孝の台詞を誤解してしまって、失恋の予感に震えたり。一喜一憂しながらも基本的には口喧嘩の相手として、梓の幼馴染である千冬を巻き込みながら日々を繰り広げる。

 

何故彼女は素直になれぬのか、何故好きになったのか。それは試験の日、彼が見せた行動によるもの。他の生徒達からは遠巻きにされる彼の素顔を自分だけが知っている、けれど素直になれなくて。

 

それは君孝も同じ事。超エリートな医者の家系の生まれである彼が抱えた家庭問題。それに揺れる心を助けてくれたのは彼女だけ。だけど彼もまた、素直になれない。繋がりを求めぬ心が邪魔をする。

 

その心のまま、一時近づいたかと思えば離れて。みんなの友達、として誰とも深くつながっていなかった梓は、級友の窮地を救うため自ら危険に飛び込んでいき。千冬の必死の叫びにより、君孝もまた一つの決意を固める。

 

「俺の友だちに手を出すな」

 

一人ではあまりにも危うい、だからこそ自分のような存在がいなければ。気を許せる、仮面を被らずに済む相棒のような存在に。決意の元に駆け付け、圧倒的な力で片を付け。梓が手に入れていた確かな成果を示し、二人の関係は少しだけ変わる音がするのである。

 

ちょっぴりシリアス、けれど真っ直ぐで初々しいラブコメとなっているこの作品。揺れ惑うもどかしさが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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