読書感想:勇者症候群2

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:勇者症候群 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、人に仇為す「勇者」、戦いに関われるのはニ十歳になるまでの子供まで、という割と救いようのないこの世界で、前巻でカグヤにより「勇者」を救う、という新たな道が開けた訳であるが、それで彼等を取り巻く状況が少しでも好転する、かと言えばそうでもなく。あくまで新たな道が開けた、だけである。そこを簡単に進んでいけるか、と言われればそうではない。

 

 

そして、今巻からはこの世界における謎、にも光が当てられ触れていく事となる。まず今巻において触れるのは「クロノス」、である。アズマやカグヤ達「カローン」の面々が使う、使用するには反動もある、今はロストテクノロジーと化しているらしいこの武器。これに纏わる闇が描かれるのが、今巻なのだ。

 

「・・・・・・お姫様扱いは楽しいかしら?」

 

だがその前に、「カローン」には新たな仲間がやってくる。しかしそれは、望まれた仲間、という訳でもない。 前巻でクロノスの刀を喪失したアズマが銃の扱いに四苦八苦したりしつつ、各人訓練とリハビリに励む「カローン」に配属されたのは監査所から出向になったハル(表紙右)。カグヤを監査所に引っ張っていくという隠された目的の元、何処か上から目線で監査に徹する彼女に輪が乱され。アズマよりもある意味難敵である彼女の言葉に、カグヤは勇者を救わなければ、とより奔走していく。

 

「分かったらもう、関わらないでくれ」

 

だがしかし、その理想は予想された事態に阻まれる。現実にこれでもかと絶望し、「勇者」へと堕ちたものにカグヤの言葉は届かず、それどころか彼女の行いの根底にある傲慢を突き付けられ。結果的に助けられず、殺すしかなくなってしまう。

 

突き付けられる無力、足りなかった対話。その思いからハルと対話する事には成功するも、アズマは己の心の中、怯えを仲間達には語らず。少しだけ不満の綻びが生まれた後、新たな勇者の脅威は巻き起こる。

 

今までとは違う、搦め手を要してくる勇者、離ればなれになり分断される味方の中、カグヤの元に怪我を抱えながら駆けつけるアズマ。彼の援護を信頼に、カグヤは改めて勇者との対話に挑む。

 

【どこにでもいる、貴女と何も変わらないただの人間です】

 

 

特別なんかじゃない、それでも。絶対に助けて見せる、と特別性を投げうって。勇者と、そして女神との戦いの中で。カグヤを認めたクロノスが、決着をつける一発を放つ。

 

 

だけれど、それは彼女達も知らぬ痛みを与える、という事。技研の面々が解き明かした「クロノス」の製法。それは「勇者」の肉片から作る、意志を持つ武器を作る、という禁忌の御業。

 

しかし、ここで考えてみてほしい。 そもそも、「クロノス」はどうやって生まれた?  「勇者」が生まれた三十年前、子供達にしか見えぬ筈なのに、どうやって「クロノス」も無しに勇者を殺した?

 

そもそも、最初の「勇者」の情報は何もない。「勇者」、という名称自体の由来も伝聞だけ。何も分からぬまま、偶々見つけた一枚の写真が。 研究長が辿り着いた仮説が。全ての前提を覆す。

 

果たしてそこに何の事実があるのか? それはまだ、誰にも分からない。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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