読書感想:隣の席の中二病が、俺のことを『闇を生きる者よ』と呼んでくる

 

 中二病、それ即ち年頃の子供の一部が発症するものであり、未来においては黒歴史となるかもしれないもの。という認識を抱かれている読者様もおられるかもしれない。中二病なヒロイン、と聞いて皆様は誰を連想されるであろうか。私はかの京アニのアニメのとあるヒロインを連想した次第であるが。というのはともかく、中二病のヒロインというのは中々に見かけぬ。それは何故だろうか。もしかすると言動の構築、という点において難しいのかもしれない。

 

 

しかしこの作品のヒロイン、紅音(表紙)は見事に中二病である。まごう事無き中二病である。そんな彼女と対を為すのは、某中二病の主人公のように振り回される系の元中二病主人公であるか、と言うとそうではない。

 

 彼女と対を為すのは、裏社会で最高の暗殺者である少年、猫丸。「黒猫」という異名の元に呼ばれるガチの闇の住人であり、紅音とは違い本物なのである。

 

「待っていたぞ! 私と同じ、闇を生きる者よ!」

 

義理の父親である寅彦に「紅竜」と呼ばれる正体不明の最強の殺し屋がとある高校にいると知らされ、任務の元にその高校へと転入して。転校初日の早々、自己紹介をちょっとミスした猫丸に、紅音は嬉々とした様子で話しかけてくる。

 

「お前・・・・・・一体何者だ!?」

 

普通だったら、特に興味もなく聞き流していただろう。だが、ここで発生するのは致命的なアンジャッシュ。紅音が即興でつけたあだ名が奇しくも猫丸のコードネームと同じだったことで。彼女こそが「紅竜」であると猫丸が勘違いしてしまったのである。

 

先に言っておくが「紅竜」という存在はいない。寅彦のとある思惑により猫丸に伝えられた、誤情報である。だが寅彦たちは知らない。その誤情報がそのまま抜け出してきたかのような、奇跡的な状況が猫丸の目の前で展開されているなんて。

 

致命的なアンジャッシュ、しかしそれを正す者も残念ながらいなくて。暗殺すべきかと思案し、対応しようとする猫丸と、そんな闇の仕草に惹かれていく紅音。彼女の親友である九十九を巻き込み、生暖かく見守る周囲の者達に囲まれながらも。

 

寝言を警戒したり、一緒にテスト勉強をしようかと思ったら、何故か学校に侵入する事になったり。共に昼食を取ったり、二人で出かけたりする中で。

 

「いや、急に恥ずかしさが込み上げて来て・・・・・・」

 

ふとした切っ掛けから気づいた、猫丸の抱える本物の闇。そこに紅音は惹かれ始め、猫丸は相変わらず誤解を深めていく。

 

まるでファミ通文庫の某有名作品のように、ドタバタをこれでもかと詰め込みながら。だがそれだからこそ、真っ直ぐに笑える面白さのあるこの作品。何も考えず笑いたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

隣の席の中二病が、俺のことを『闇を生きる者よ』と呼んでくる (角川スニーカー文庫) | 海山 蒼介, 海原 カイロ |本 | 通販 | Amazon