読書感想:腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~

 

 ザンギリ頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。という文言を歴史の授業で聞かれた事のある画面の前の読者の皆様もおられるのではないだろうか。明治、それ即ち鎖国と江戸時代が終わり、世の中のあり方も何もかもが変化していった時代。そんな時代は今や歴史の教科書の中の時代であるが、今の時代から見れば一種の浪漫があるのも確かであろう。

 

 

この作品はそんな時代を舞台にした世にも珍しいライトノベルであり。明治時代らしい独特の語り口で描かれる、命を懸けて戦う悪魔祓達の戦いのお話なのである。

 

明治三十六年、世の裏は未だ闇に満ちて。世の裏で暗躍するのは、この世に渡り来た悪魔達。別世界の脅威である悪魔を狩るのは、大日本帝国の陸軍の特殊部隊。その一員であり九尾の狐を使役する名家の出でもある最年少少佐、皆無。

 

 任務で向かうは神戸、外国人居留地。そこに響き渡るのは悪魔の襲来警報。しかしそこにいたのは、敵意はないと語る腕を持たぬ悪魔、リリス(表紙)。彼女も気付かぬままに彼女の影を渡り来た悪魔、アンドラスにより皆無は致命傷を負わされてしまう。

 

死の淵で願う、生きたいと言う原初の渇望。そこに応えるのはリリス。それ以外に選択肢はなく、彼女と契約を結んだことで、皆無の身柄は半分悪魔へと変わり。圧倒的な力と引き換えに彼女と一蓮托生の関係となってしまう。

 

彼女の力を借りアンドラスを狩り。彼女と共に監視対象となるも、腕を失くした彼女に振り回され街へと連れ出され。人間の文化に興味津々の彼女に、人間の文化を教えながら。それはまだ少年である皆無にとっては、初めての女性との蜜月であり、幸せな時間であった。

 

けれどそんな時間は長くも続かぬ。突如として襲来した空中要塞、その主であるサブナックはリリスの身柄の引き渡しを求め。皆無達を巻き込む事を望まぬリリスに、それでも共に来て欲しいと願われれも、皆無は人間サイドに立つことを選び二人は離ればなれとなる。

 

だが、彼女の眷属である聖霊から伝えられたのは、リリスは皆無の自由意思を尊重したという事。その思いを受け皆無は改めてリリスの側に居る事を選び。腕を探しながらの、二人の全てから逃げる逃避行が幕を開ける。

 

 だが、全てはここからが本番なのである。徐々に追い詰めながらの逃避行の中、唐突に状況は駆けだし、全てが二転三転し。皆無の師匠である愛蘭、父親である正覚までも渦中に巻き込み、彼等を中心として戦いが幕を開ける。

 

厳しき死闘の中、悪魔に身を転じてでも叶えようとするのは、貫こうとするのは何か。それ即ち愛。愛するが故に譲れないものはここにある。

 

「それが、お前の名だッ!!」

 

 そして全ての勝負の鍵となるのは、名に込められた本当の意味。既にそこに在った、最初から手に入れていた真の切り札である。

 

独特な語り口に魅力を感じたのならあっという間に引き込まれる、独特な浪漫で訴えてくるこの作品。癖とコクのある作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~ (角川スニーカー文庫) | 明治 サブ, くろぎり |本 | 通販 | Amazon