読書感想:放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている4

 

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読書感想:放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この作品は今巻で最終巻である。それ即ち、大和と聖良の関係にも一つの決着がつく、全ての結実が訪れる巻である。では最後に向けて何を描いていくのか、というとであるが。前巻の最後、聖良から齎された衝撃の一言から始まる大和の決意、そこから始まる変化である。

 

 

そしてもう一つ、忘れてはならぬ事がある。大和も聖良も、言ってしまえば等身大の未熟な子供であるという事。特別な力も何もない、あるのは青臭い熱意だけ。普通であれば、まるでご都合みたいな展開だって起きるかもしれない。だがこの作品ではそんな事は起きない、と先に言いたい。大人の思惑に振り回され、そんな中で何かを選び変わっていくのである。それこそ「尊い」、だけではないのだ。

 

父親との話し合いから帰還した聖良と、ちょっと余所余所しい日々が続き。それでも意を決して聖良を文化祭に誘い、何とか受け入れてもらう事に成功し。放課後の時間を取り戻すかのように、文化祭という非日常の時間の中で。二人の距離は少しずつ縮まっていった。

 

だがそこに、聖良の父親からの影が一つの波紋を起こす。聖良を芸能界デビューさせようとする父親の思惑により、大和の母親が人質に取られ。期せずして父親との直接対面となるも、見ている所が違うと思い知らされ。自分の思いの根源にまで触れられ、それでも聖良の慧眼を信じているからこそという、不器用だけれど確かにある親の情、を見るに終わる。

 

それで終わっていれば、いつも通りの日々に戻るかもしれなかった。だがしかしそうはならなかった。友人達の手助けにより持ち込んだ、遊園地での打ち上げ。だがそこで告げられたのは芸能関係に強い高校への彼女の転校話。聖良から聞き出した離れたくないという思いを聞き、大和は半ば衝動的に二人で逃げ出す事を選び。出来るだけの準備を整え、二人で遠くへ逃げ出す事を選ぶ。

 

けれど未熟な二人が長く逃げられる訳もない。夢の時間は終わりを告げて、現実に戻らねばならぬ時間はやってくる。だがこれは大和にとっては必要であった時間なのだ。

 

「なら、俺も戦うよ。聖良と一緒に戦う」

 

それは彼なりの決意。逃げると言うのは子供の決断。だがこれからも彼女の側に居る為に。認めさせてやると言う、不退転の挑戦の決意。それは大人になる第一歩。本当に大切なものを選び、歩いていくための決断だ。

 

その決断を胸の中、時に大人達とぶつかり合いながら社会に揉まれながらも成長し数年後。聖夜を迎える街にあるのは並びあう二人の姿。

 

「空まで私たちのことを、祝福してくれているんだね」

 

その景色の中で誓う、未来への約束。それはいつの日かから続き、これからも歩いていくと言う誓いなのだ。

 

どこかシリアスに、けれどしんみりと温かい今巻。最後まで是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている4 (ファンタジア文庫) | 戸塚 陸, たくぼん |本 | 通販 | Amazon