読書感想:オーク英雄物語4 忖度列伝

 

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読書感想:オーク英雄物語3 忖度列伝 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、またまた前巻より一年の時を経て刊行された今作品であるが、前巻までを読まれている読者様がこの巻の感想を開かれているものとして、ここからは書いていきたい。画面の前の読者の皆様も既にご存じであろう。嫁探しをしている筈が結果的に世直しの旅をしている、我らが英雄、我らが童貞のバッシュの活躍を。しかし忘れてはいけない。彼もまた戦場で名を馳せた人物であり、死体の山を築き上げ、多くの英雄達を切り伏せてきた者であるという事を。即ち彼に向けられるのは好機、好意の視線だけではない。憎悪を向ける者とて、確かに存在しているのである。

 

 

前回の最後、目的地として定めたビーストの国。所謂獣人の国であるそこは、オークにとっては多産な特徴もあってねらい目と言えた。が、しかし。到着早々バッシュは警備隊に敵意を向けられ、愛と正義の使者を名乗るエロール(表紙右上)と呼ばれる謎の男の口添えにより何とか入国を果たす。

 

何故かの国では憎悪と敵意を向けられるのか。それはかの大戦でバッシュがビーストの英雄であるレトを討伐し、その遺体を戦場に放置してしまったというもの。事情があったとはいえビーストにとっては誇りを汚された事に他ならず。第三王女の婚礼も相まって、バッシュは排斥対象となってしまったのである。

 

「私、一目惚れしてしまいましたわ」

 

が、その彼へと声を掛けてくる女性が一人。第五王女であるシルヴィア―ナ(表紙右)。レトに関する怨みもない、と言い迫ってくる彼女に、バッシュは拾って読んだ恋愛指南の雑誌を元に紳士的にアプローチし。紳士的が過ぎて梯子を外したりしながらも、少しずつ距離が近づいていく。

 

・・・筈だったのだが。物事はやはりそう簡単にはすすまず、戦場のように予測不能のものである。シルヴィア―ナが心の中にやはり抱く、バッシュに対しての復讐心。そこに付け込み彼女に迫るのは、バッシュの戦友でもある最強のサキュバス、キャロット(表紙左)。ビーストにとっての最重要なものである聖樹に触れさせることを条件に、彼女は協力を申し出る。

 

だがそれもまた見せかけに過ぎなかった。シルヴィア―ナとは違いキャロットにとって、バッシュとは大事な戦友であり認める男。彼女がシルヴィア―ナを許す訳もない。聖樹に辿り着いた所で彼女は牙を剥き、聖樹から取り出した実を片手に、真意を明かす。

 

それは、今も尚虐げられるサキュバスの立場を救うため、戦争で死したデーモンの長を復活させんというもの。だがそれは再び世界を動乱に巻き込むことに他ならぬ。エロールの正体であった、ヒューマンの英雄、ナザールが止めようとしても止めきれず。

 

「敗北するとは、そういうことだ」

 

だが、その場に駆け付けたバッシュはキャロットの懇願をナザールに借りがあるからと蹴り、己が道を行く事を示す。キャロットに協力すればオークとしても、自身としても望む者が全て手に入る。だが、そんな事は関係ない。今の結果は敗北した結果、それを受け入れると。共感できるからこそ迷いながら、それでも敵となる事を選ぶ。それは正に「英雄」の行い。

 

それでもキャロットは止められぬ。一瞬の隙を突き、キャロットはデーモンの手の者に連れられ脱出を果たしてしまったのだ。

 

初めて一巻では収まらぬ騒動が起きる今巻。果たして唐突に芽吹いた不穏は刈り取れるのか。

 

シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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