読書感想:放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている3

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、何とはなくうまくは言えないけれど、それでもお互い以外が傍にいるのは何となく考えられない。未だ宙ぶらりん、けれどここにしかない「特別」である大和と聖良の関係。そんな二人の世界を築きつつある二人であるが、画面の前の読者の皆様はこうは思われたことは無いであろうか。二人きりの世界では、何かが足りないのではないかと。

 

 

では一体、何が足りないのだろうか。その答えとしては「変化」があげられるのではないだろうか。閉じた世界では何も変わらぬ、変えられぬ。ならばどう変化させるべきなのか。早い手段は外部から刺激を投げ込む事だろう。

 

その刺激となるべき存在が現れるのが今巻なのである。その存在の名、それは椿。聖良のかつての後輩と名のる少女であり、実際に彼女の過去を知る少女なのである。

 

「こうして顔を合わせるのは一年ぶりになりますね!」

 

終業式の後、クラス会に参加する大和と聖良の元に現れ、クラス会にも受け入れられ参加し。大和の戸惑いもつゆ知らず、ぐいぐいと来る椿。そんな彼女を、いつも通りの掴めぬ態度で受け入れ、彼女も交え遊びに繰り出していく聖良。

 

三人で海に行ったり、水族館に行ったり。いつものように夜の遊びにも、椿を加えて三人で向かったり。

 

聖良と二人、初めてのバイトに励み。バイト終了後に二人で、ご飯を食べに行ったり。

 

いつもと同じようで、椿が加わる事でちょっぴり違う日常。そんな日常の中、椿を通じ大和は聖良の、今まで知らなかった過去の一面を目撃していく。

 

今の様子からは想像も出来ぬストイックさ。今、日々を楽しんでいる彼女とは真逆の、まるで研ぎ澄まされた刃のようなその様子。その頃の彼女に戻って欲しいと椿は願い。けれど協力を要請された大和は、彼女の思いを大切にしたいと敢えて突き放し、それでも今問題を抱える椿を助けたいと思いを巡らす。

 

「それで、父親とちゃんと話してくる」

 

「俺はいつだって白瀬の味方だから」

 

だからなのだろうか。聖良が今まで拒絶していた父親と向き合う事を選んだのは。それは彼女の中の変化の証なのか。

 

「しばらく遊べなくなると思う」

 

だが、その思いはきっと届かなかったのか。その心に触れられず、いっそ優しい笑みと共に聖良が零した言葉。大和が伸ばそうとした手は、届かない。

 

確かな変化が始まる中、きっと求められる大和の変化。今、彼女の心に触れられるのは彼だけ。その手は、届くのか。

 

次巻、きっと何かの分水嶺になる筈である。

 

放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている3 (ファンタジア文庫) | 戸塚 陸, たくぼん |本 | 通販 | Amazon