読書感想:双星の天剣使い1

 

 

 さて、まずは画面の前の読者の皆様にお聞きしてみたいが、皆様は中華を舞台にした物語と言うと、どの辺りの年代を想起されるであろうか。皆様の中では、やはり三国志を舞台にした作品が多いのかもしれない。と、言う程にかの時代背景を舞台にした作品が多いのは周知の事実である。

 

 

だがしかしこの作品は、そうではない。正に独自の中華系の世界が形成され、その中で展開されている作品なのである。

 

とある異世界に存在する煌帝国、その皇帝に仕え、だが凡庸な二代目の皇帝には恐れられ疎まれ、冤罪をかけられ。幾多の戦場を不敗のままに駆け抜けた先代将軍、英峰は盟友である大丞相、英風に神代に打たれたと呼ばれる双剣、「天剣」を託し。自ら命を絶った。

 

だが、千年の後、彼は隻影(左)という名で転生し。現在、大陸を南北に分かつ大河以南を統べる栄帝国の北方を守る張家の居候として十年来世話になっていた。前世の記憶から今回の人生は文官を目指そうとするも、衰えたとはいえその武は失われる事無く。兄妹のように育った張家のお嬢様、白玲(表紙右)と共に鍛錬しながら日々を過ごしていた。

 

文官になりたいと溜息をつく日々、だがその日々に静かに戦火が忍び寄る。白玲の初陣である廃砦に巣食った野党の討伐、だがそれは北の大国、「玄」の軍隊の罠であり。何とか救援に駆け付け、四人の猛将の一人、「赤狼」のグエンと一線を交え何とか退ける事に成功するも。増援養成のために訪れた帝都は、怠慢に満ち。宮殿では白玲と親父が貶され、義で怒り実権を握る老宰相の縁者に手を上げてしまった事で、隻影は帝都からの追放処分を受けてしまう。

 

その隙を狙い、廃砦を改修した前線基地に迫る敵の大軍。少数精鋭で駆けつけ、尊い犠牲の中で敵の将を討ち取れど、それは前哨戦に過ぎず。密かに同盟国であった「西冬」を寝返らせ、周りから孤立させると言う深謀遠慮な策を仕掛けていた「玄」の皇帝、アダイが二十万を超える大軍を率い迫りくる。

 

当然こちらの手勢はごく僅か。いくら隻影が武勇に優れていても、単騎で圧倒的な戦力差を覆すことはさすがに難しい。白玲を都への遣いへ出し、自身は手勢を率い大軍との激突に突入する隻影。

 

共に戦うのは、隻影の戦場のカリスマに惹かれた強者たち。策を弄し武を示し、何度も侵攻を跳ね除け。それでも戦力差は如何ともしがたく、遂に彼等は追い詰められる。

 

「白玲、大丈夫だ」

 

「―――当然、です」

 

 もう無理なのか、終わりなのか。―――否。希望は後から駆け付ける。都の大商人である王家の娘であり、隻影に懸想する麒麟児の明鈴が隻影との語らいの中から生み出した大船団で、張家の軍隊を送り届け。彼女へ隻影が伝えていた無理難題、「天剣」は彼女の手により入手され、彼の元へ届けられる。白玲と分け合い、抜かれた双剣。選ばれし者にしか抜けぬ双剣が抜かれた時、再び双星は輝き伝説が蘇る。

 

 

けれどこれは始まりに過ぎぬ。そして戦況は始まりから絶望的、そして敵は隻影にも勝る人材を多数そろえた帝国。ここからどう勝ち目はあるのか。

 

だが、心が燃える、心が躍る。正に王道で骨太な独自の世界観の中、それぞれ魅力を秘めた者達が躍っている。だからこそどうしようもなく、心が湧きたつ。

 

故に私は断言しよう、この作品は最高であると。ファンタジー好き、いやラノベ好きな読者様は全員この作品を読んでみて欲しい。

 

きっと貴方も満足できるはずであるので。

 

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