読書感想:EVE ー世界の終わりの青い花ー

 

 さて、人類が宇宙に進出している世界観と言えば画面の前の読者の皆様はどんな作品を思い浮かべられるであろうか。マクロスであろうか、ガンダムであろうか。ガンダムであれば最近話題の水星の魔女のように水星、さらに遠くにおいては木星、描かれてはいないが太陽系から四百光年離れた星々にまで人類はその足を延ばしている。このように人間は創作の世界においては、様々な星々にまで足を延ばしている訳であるが、我々現実の人類はいつか遠くまで足を延ばせるのだろうか。

 

 

その答えは未来で確かめるとして、この世界は近未来のSFものである。近未来、人類が地球という軛を逃れ宇宙に進出していった時代のお話なのだ。

 

現在と未来を記述する方程式が打ち立てられた西暦の終期。その演算機として、天空の宇宙に坐する完璧に管理された人工の楽園、「新世界」とその生態端末のようでもある、世界中の通信に触れられる新人類、「接続者」が作成され。だがその方程式を受け取る筈の巫女の一人、言語機械のアンドロイド、青子は宗教団体を作り人類から離れ。火星からの亡命者であるカシマ(表紙右)が太陽系を繋ぐ「ゲート」を占有する企業を作り。方程式の解を受け取ると予定される年まであと三年。

 

そんな世界の片隅、新世界の一つで学生として過ごす少女、イヴ(表紙左)。彼女は「予言の巫女」のもう一人として作られながらもそれを知らず、普通の少女として育てられ。父親であるヴェルクラウスと反発し家を飛び出し。ネットゲーム内での友人であるヤクモに誘われた青少年交流プログラムに向かおうとしていた。

 

 だが、事態は急展開を迎える。出発の日、旅立ちの場は突然のテロにより混乱へ陥り。その場を脱出するために、予定の宇宙船に乗り込み気が付いたら、宇宙のごみ捨て場に漂着していたのである。

 

偶々同船していたヤクモや、同年代の子供達と共に、何故か宇宙船の中にあった貴重な可変型ヒト型万能機械の「星牙」で助けを呼びに行く事を目指し行動を始める彼女達。だが、何者かに壊されていた酸素系の機械と、まるで密室殺人のような事件が巻き起こり、時折イヴにだけ見える未来視の光景も相まって、彼女は生存への道を探し振り回されていく。

 

その一幕の裏、新世界で巡るのは大人達の思惑。イヴの正体を知るからこそ、そしてこの世界の思惑を知るからこそ、それぞれの動きを見せる者達の思い。

 

 過去と未来、様々な時間が交じり合い。様々な時を駆け、幾つもの視点が交差する。そんな群像劇的な物語で描かれるのは何か。それは「時」を巡るお話、「家族」を巡るお話。

 

「あなたの心なんじゃないかしら?」

 

そして、世界の危機を防がんとする彼女の思い、ただそれだけなのだ。

 

正に新人賞らしく、様々な要素を一手に盛り込まれたこの作品。粗削りであるも確かな面白さを感じるので、是非にライトなSFが好きな読者様は読んでみて欲しい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

EVE ー世界の終わりの青い花ー (HJ文庫 さ 10-01-01) | 佐原一可, 刀彼方 |本 | 通販 | Amazon