読書感想:プリンセス・ギャンビット ~スパイと奴隷王女の王国転覆遊戯~

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 さて、画面の前の読者の皆様はギャンビットという言葉はご存じであろうか? 何ぞそれと思う方に向けて簡単に説明すると、ギャンビットとはチェスにおける定跡の一つでありオープニングにおける戦術の一つ。駒を犠牲に、駒の展開や陣形においてアドバンテージを求めていく、一種の犠牲を伴う戦術である。では一体、この作品におけるギャンビットとは何なのであろうか。何を犠牲に、アドバンテージを得ようとしていくのか。

 

 

 半世紀前の世界大戦で数々の国の王室が崩壊する中、王の力が更に確固たるものとなった国、ロアノーク。憲法により王の絶対王政が保証され、階級主義と徹底的な資本主義が根付いたこの国において、一つ大事な戦争がある。その名は「王位戦争」。王の血を引く者であれば誰でもが参加できる、国王の座を巡るゲームである。

 

「あなたの人生をください」

 

 かのゲームが始まろうとしている国の片隅、王と奴隷の間に生まれた落胤である少女、イヴ(表紙左)は自身を監視していた少年、カイ(表紙右)へと声をかける。自らの守護者としてゲームに連れていく為に。

 

勝ち残らねば死あるのみ、そんな奴隷の少女を何故カイは監視していたのか。それは彼がロアノークと並ぶ大国、ヴォルヌ連邦の諜報員であるから。そんな彼へとイヴは言う。共に戦い、玉座を勝ち取れたのなら自身を傀儡として捧げよう、と。

 

 あまりにも魅力的に過ぎるその誘いに乗り、イヴの唯一の仲間としてカイが入学したロアノーク王立学園。その場所こそが遊戯の舞台であり、王の子供達が共に過ごし学び合いながらも、水面下では互いを蹴落とそうとしている戦いの場所。

 

「国民」と呼ばれる生徒達を、「決闘」と呼ばれる三十三種類の戦いで奪い合う期限は一年。始まった時にはすでに明確な差が出来ている、力なき王の子ほど不利となるこの遊戯。

 

 しかし、最弱であるからこそイヴは誰にでも挑める、誰とでも戦える。そして彼女の脳裏には既に勝利への神算鬼謀が渦を巻いている。その考えのままに、彼女はカイを自らの手駒とし便利に使いながらも各所を操り、躍らせ。勝利への道筋を掴んでいく。

 

ある時は「王盤」と呼ばれる遊戯で、兄であるアレクの心の隙を突き心を崩し屈服させ。またある時は「戦争」と呼ばれる演習行為で、気が付かぬ間に兄であるクリストフの軍隊を機能不全に陥らせ。

 

彼女の目には一体何が見えていると言うのか。彼女は一体、何を見ているのだろうか。第二王女、ジェシカに仕掛けられた罠さえもそれを利用しかいくぐった上で、彼女に圧倒的な敗北を刻み込むイヴ。

 

「カイさん。わたくしのゲームではありません。わたくしとあなたのゲームですよ。始まるときも、終わるときも一緒です」

 

そんな彼女はまるで蜂蜜のような声と共に艶然と笑い。カイを引き連れ、また新たな遊戯の場へと進んでいくのだ。

 

めくるめく陰謀と計略の手、騙されたかと思えば騙し、気が付いた時には全てがひっくり返る。その様に、貴方も騙されてしまうかもしれない。

 

デスゲーム的な騙し合いが好きな読者様、知略に富んだヒロインが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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