読書感想:地下鉄で美少女を守った俺、名乗らず去ったら全国で英雄扱いされました。

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は「英雄」になりたいと思われた事はあるであろうか。英雄になりたい、と願ったキャラと言えば白虎型のモンスターを従えたどこぞの仮面ライダーくらいしか思い浮かばないが。と、言う話はともかく。もしもの時に、人は中々とっさには行動できぬものである。だが、咄嗟にでも勇気を振り絞って行動できたのならば。それは「英雄」になる第一歩であるのかもしれない。

 

 

中高一貫の元お嬢様高校を受験した帰り道。主人公であるおひとよしの少年、涼は帰宅するための電車での帰り道。彼の乗る車内で通り魔事件が発生し。逃げそびれた少女を救うため、勇気を振り絞って通り魔の前に立ち。とある切っ掛けから身に着けていた武術の技で以て制圧する事に成功し、目立ちたくないからと名乗らずその場を立ち去る。

 

「私達どこかでお会いしたことがありますか?」

 

 が、しかし。その行動は結果的に波乱の呼び水でしかなかった。事件後のインタビューで「千年に一人の美少女」と評された少女、ひなみ(表紙)が彼の事を英雄と呼んだことで全国で英雄扱いされ。更には何とか合格していた高校の入学初日、迷子を助けた事でこの学校の生徒であった彼女と再会を果たすことになる。

 

そしてどうやら、運命の女神様という存在がいるのなら。女神様は彼に悪戯をするのが好きなのかもしれない。気付けば同じクラスで席も隣同士、更には委員会まで同じという状況に追い込まれ。常にいつバレるか、ハラハラしかない生活が幕を開けるのである。

 

「その言葉を待ってた。大丈夫、俺が何とかする」

 

隠しておきたい、だけど常に生活は身バレフラグ塗れ。更には級友であり推理能力の塊、小春にその正体を看破され。黙っておく条件として買い物に付き合えば、何故かひなみとのお出かけがセッティングされ。その美貌で不良に絡まれる彼女を、また助ける事になり。

 

 恋煩いに揺れるひなみ、とある後悔から自分の正体を隠しておきたい涼。二人の思いが交差する中、学校行事である林間学校で、実は涼の過去に関係のある相手がすぐ側に居たという事実が判明し。その相手との接近に、更にひなみの心は揺れ動く事となる。

 

「お前は誰よりも幸せになる権利がある」

 

助けてくれた相手に、お礼もまだ言えていないのに。その気持ちを忘れてしまうかもしれないから、幸せになる事を怖がる。ある意味感受性の強さからくる問題を見つめ、だが言い出すことは選ばず。それでも彼女を肯定し、その幸せを願う言葉を投げる涼。

 

言えないからこそ、守り抜く。ひなみの光という裏、そこに在って彼女を守る影として。その決断は何を呼ぶのか。

 

ちょっとドタバタ、けれど真っ直ぐな思いが廻るこの作品。可愛らしいラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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