前巻感想はこちら↓
読書感想:三角の距離は限りないゼロ3 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、先に後書きネタから語ってしまうが、作者様曰く前巻までが前半戦、次巻からが後半戦であり今巻は繋ぎの巻であるらしい。だからこそ先に言ってしまうと、今巻は今までとは少し違いコメディちっくであり、何処かくすりと笑える青春の景色が溢れている。では今巻では何を描いていくのか。それは初めての春珂と秋玻からのアプローチ。四季を懊悩の谷間から救い出すための、彼女達の頑張りなのである。
「・・・・・・本当は、全然平穏じゃないのかもなぁ・・・・・・」
前巻、秋玻の決断。春珂ときちんと四季を取り合う為に、一度関係を清算するという事。だがその決断はあまりにもタイミングが悪すぎた。秋玻との関係を解消した四季は、いつもの仲間達に心配されるほどにどこか気の抜けたように。頭の回転も鈍く日々を過ごし、どこか心ここに非ずといった様子を一か月も続けていたのである。
そんな中、巡り来るのは大阪、京都、奈良を二泊三日で巡る修学旅行の季節。ここでアプローチし何とかする為に秋玻は果敢に仕掛けていくも、するりと一歩距離を引くかのように。四季は前巻で友人となった未玖と千景、更には細野も加えてグループを組むことになり。気が付けばいつものメンバーが新規メンバーを加え更には分断された、妙なグループが二つも出来ていたのである。
しかし一度決まったものは待ってはくれぬ。容赦なく修学旅行は始まり、梅田のダンジョンで秋玻と春珂が四季と遭難したりといったハプニングもあり、全体的にはドタバタと進みながら。秋玻と春珂は取り戻そうと、必死に手を伸ばしていく。
「うん、顔見ればわかる」
「・・・・・・言いたいこと、我慢してるんじゃないのか?」
明らかに精彩を欠く、けれど何もかもが失われたわけじゃない。彼女達の事をきちんと見ている、その柔らかい優しさは変わらない。では何を彼は失ったのか。それは「情動」。秋玻の宣言と霧香の言葉で彼は自分を見失い、激しい感情を失ってしまっていたのである。
それに気づき、春珂と秋玻に皆が協力し全員で一大作戦を決行せど、やはり彼の心は揺らせない。暖簾に腕押し、まるで柳の葉の間を風が吹き抜けるかのように。彼は何も変わらない。
それを何とか出来るのは誰か。それは秋玻と春珂に他ならぬ。霧香から真実を聞き出し、確固たる思いを持って。彼女は四季と二人、抜け出して向かった思い出の遊園地で四季ともう一度向き合う。
「―――わたしたちを頼って」
「わたしたちを信じて。わたしたちに寄りかかって。わたしたちを、必要として」
「―――そうなれば、矢野くんはもう、わたしたちを手放せない」
彼女が告げる一つの取引の提案。それは今度は自分達が四季を支える、最初の変わらぬものになる。だから必要として欲しい、という青春の蒼さに満ちたもの。その取引、そして秋玻の瞳の中の銀河を見、気が付けば四季はその提案を受けていた。今度は彼女達に背を押され、一歩を踏み出したのだ。
だが作者様曰くこの作品の本性が牙を剥くのはここかららしい。一体、どんな展開になるのか。
怖いけれど、楽しみにしたい次第である。