読書感想:三角の距離は限りないゼロ5

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:三角の距離は限りないゼロ4 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で春珂と秋玻から取引を持ち掛けられた事により、四季との関係は一度リセットされ、今度は四季が支えられる側に回った訳であるが、前巻の最後、私はこの作品の本性が牙を剥く、という話はしたであろう。入れ替わりまでのタイムリミットの減少が少なくなったことにより、一瞬感じる希望。だが、それは甘い考えであると言わざるを得ない。何故ならば、そんな展開であればこの作品はこの作品足り得ないから。今は未だ一瞬のモラトリアムにすぎないのである。

 

 

『―――同じだけ、わたしたちを大切にして』

 

『―――同じだけ、わたしたちを好きになって』

 

修学旅行も終わり、年が明け。春珂と秋玻を同じだけ大切にして、好きになる。二人が同じだけ互いを肯定できるように。そう望まれ、四季は二人の手を離さない為にもそうする事を決め。二人と同時に、恋人のように振る舞う。そこにまるで縋るかのように。

 

そんな彼の元、舞い込んでくるのは進路希望調査。いつもの仲間達も、秋玻も春珂も己の夢を持っている。だが対して自分はどうか。まだ何も夢はないし、将来も見えない。自分だけが立ち止まっているという焦燥感に駆られる彼を見て、担任である百瀬が提案した職場訪問。時子と晃と共に向かうのは、街の小さな出版社。

 

 そこで待っていたのは、百瀬の夫でもある若手編集者、九十九。百瀬とのなれそめを思わず春珂が問い詰めてしまったり、職場や仕事風景を見学したりして。今まで知らなかった本を創る現場を目撃した事で、彼の中で焦燥が形を持ち、駆け出していく。

 

置いてきぼりはもう嫌だ。時子の姉である作家、ところに語った本心。焦りのままに駆けだそうとする四季を九十九はやんわりと押し留め、焦ることは無いと人生経験から口にする。

 

「だから―――矢野くん。選んでくれる?」

 

見出した自分の夢、置いてきぼりから一歩踏み出した足。だが、春珂は唐突に口にする。秋玻と共に話し合った結論を。四季と同じように自分達も、このままではいけないと思っていた。だからこそ立ち止まってはいられない。どちらも本物、一人の人間。哀しい結末が待っているかは分からない、けれどこのままでは。だからこそ始めたい、という思いを。

 

それを飲み、四季もまた選ぶ。心地よい時間は、モラトリアムはいつか終わりを告げるもの。それを終わらせるための引金はここにある。嘘をもうつかぬ為に、選ぶと。

 

始まるのは最後の「取り合い」。そう、もうここからは止まれない。緩やかに、けれど確実に。終わりへ向けて歩き出したのである。

 

果たしてここから何が待っているのか。楽しみにしていきたい。

 

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