前巻感想はこちら↓
読書感想:三角の距離は限りないゼロ6 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、ここにきて何であるが、画面の前の読者の皆様、是非この作品のタイトルを見返してみてほしい。「三角の距離は限りないゼロ」、である。限りないゼロ、それはどういう意味なのか。春珂と秋玻の時間がどんどんと短くなっていく中、最期の十日間が始まる中。その意味が明かされるのが今巻なのである。
―――僕って。
矢野四季って―――どういうやつだったんだ?
前巻の最後、春珂でもなく秋玻でもない少女に恋をすると言う夢を見た事で。四季は再び明るくなった、だがその変化は父母にとっても、そして春珂と秋玻を始めとする周りの人間にも困惑を以て受け止められるものであった。
その変化はなぜ起こったのか。その理由は簡単。彼は恋をする中で、あまりにも近すぎる距離の中で自分を見失ってしまったのである。作り物の仮面を被った自分と、その裏に隠していた本物の自分の間で。自己同一性を失ってしまったのである。
「矢野くんの中で―――答えが出たんじゃないかな?」
春珂が見出したその原因、それはこの関係を終わらせる準備が、まだ答えは言葉にならずとも四季の中で固まったのではないのかという事。その変化は、様々な感情がまるで抑圧から解放されるような変化は。修司たちにとって、これもまた自然ではないのか、と思わせ違和感を取り払っていく。
霧香の助けも借り、彼を肯定する者、そして否定する者達からも四季という人物への評価を集め、彼の本当を探していく中。春珂と秋玻も、自分達の事を考え出していく。どんどんと統合へのカウントダウンが進み、徐々に自我の境界を無くしていく中。自分達にとって「本物」とは何か、と考えていく。
果たして四季とは何者か。どんな彼が彼であるのか。
「―――わたしの知ってる矢野くんが、本物だと思う!」
だけどそんな問いには意味がない。どんな彼が彼であっても、「自分」が観測した四季こそが本物である。だからこそ、今、統合が始まる中で。「彼女」もまた、いよいよ四季へと選択肢を投げかける。
「矢野くんが、選んでくれた方が残ります」
「矢野くんが、選ばなかった方が消えます」
「―――選んで?」
それは彼にしか選べぬ決断。春珂と秋玻、二人の生殺与奪を委ねるもの。彼にとっての、本物を選ぶ、彼女の事をずっと見てきた彼にしかできぬもの。
もう統合は止まらない、選ばない事は許されない。果たして巡り来る最後、四季は何を選ぶのか。
次巻、いよいよ答えの時。それを見逃さないようにしたい。