読書感想:顔さえよければいい教室 1.詩歌クレッシェンド

 

 さて、「※ただしイケメンに限る」、「顔面偏差値」なんて言葉があるけれど、それは果たして正しい価値観なのだろうか。確かに顔面がイケてるのは大切かもしれない。しかし私見ではあるが先に言わせてもらうと、最後に問われるのはやはり人間性である。外見が良くても心に何を秘めているか分からず、外面が醜くても内面は聖人のように綺麗と言う場合だってある。だからこそ、外面に惑わされずに人の事を見るのが大切なのである。

 

 

私立繚乱高校、ここは音楽やダンス、ファッションと言った芸能関連のあらゆるジャンルの天才達が集う芸能学校。しかしここはSNSでの発信活動で評価と得られる報酬の変わる、弱肉強食の世界である。

 

「―――青、この曲の色。私はそれに合わせて歌うだけ」

 

 この世界で問われるのは何か。それは「顔」をはじめとした外見の良さ。外見主義がまん延するこの高校に、二人の兄妹がスカウトされて入学する。妹の名は詩歌(表紙)。二つ年上の兄、楽斗に生活のすべてを依存する引きこもり。普通に考えれば彼女では勝てぬかもしれない、生き残れるかもしれない。だがしかし、彼女には一つ、誰にも負けぬ才能があった。それは「歌」の才能。彼女は「シーカー」という名で活動する、歌い手だったのである。

 

彼女の歌声は正に天才的、何にも縛られぬ、自由な風の中で綴られるもの。そこに楽斗のプロデュースと言う名のお世話を加え、高校の表舞台へと殴り込みをかけていくその中で。彼女の歌声は周りを驚嘆させ、確かな波紋を齎していく。

 

 だがしかし、この世界は知らぬだけでかなりの魔窟である。負けたくないと言う天才達の思いの裏、隠れているのは子供達を食い物にし思うがままに使い倒そうとする大人達の思惑。その思惑に気付かぬままに踊らされる、六オクターブの歌声を操る歌姫、エリオが詩歌へと勝負を仕掛け。彼女には珍しく、詩歌は自分から動き、勝負の場で自分だけの曲を以てエリオへと戦いを挑む。

 

「もったいなかったから」

 

何故彼女と戦ったのか、それはもったいないから。彼女の歌声に隠されていた色、歪んだ色の下の本当の音がいいと思ったから。

 

「いらねーよ、カス」

 

詩歌の説得により、エリオは本当の音を取り戻し、天才達はあるべき所へ収まる。その裏、黒幕と対峙した楽斗は怒りと共に人知れず、全ての決着をつける。まるで陰から守る騎士のように。最後の大切な部分を自分だけで抱え込んで。

 

「よし、やろう。俺も詩歌も、その案に乗った!」

 

 この作品は「エンターテインメント」である。そう言う他ない、まごう事無きエンタメなのである。そして同時に、反逆の物語なのである。つまらない価値観に支配された世界に、子供達が否と反逆し立ち上がる物語なのである。

 

だからこそ、この作品は真っ直ぐに面白い。心の奥底、その一番深い所を擽ってくる。故に面白い。正に大きな物語の始まりを感じさせてくれるのである。

 

心震える体験がしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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