読書感想:エロゲのヒロインを寝取る男に転生したが、俺は絶対に寝取らない

 

 さて、この世の中にはNTRやBSSといった、私からすると業が深いジャンルが存在している訳であるが、そういったジャンルの魅力が私には分からぬ次第である。しかしそういったジャンルが、人々に受け入れられているのも確かであるという事は分からぬだけで、確かな魅力が存在しているという事なのだろう。

 

 

ではこの作品はNTRであるのか、BSSであるのか、と言うとであるが。どうもどちらにも属さない、というのが読み進めるうちに分かってくる作品であり。気が付けば重きに過ぎる「愛」を叩き込まれている作品なのである。

 

「俺に寝取りの趣味はない。寝取られの趣味もないけどな」

 

かつて一世を風靡したNTRエロゲ、「僕は全てを奪われた」。好意を寄せていた幼馴染も、自分を慕ってくれた先輩も。気が付けばすべてを奪われていた主人公、修の目線で体験していくと言うかなり業の深そうなそのゲーム。気が付いた時、主人公はこのゲームの世界に転生を果たしていた。しかしそれは修としてではなく。全てを奪う親友であり幼馴染、斗和としてだったのである。

 

「いいですよ、今は何も考えず私を好きにしてください」

 

 無論、今の斗和に寝取り趣味も寝取られ趣味もなく。ゲーム開始の時間軸まで一年の余裕があるからこそ、修と幼なじみヒロインである絢奈(表紙)を結びつかせんと動き出す。だが、絢奈は何処か違った様子を見せる。修の目がない二人っきりの状況では積極性を出し。斗和に対する好意を、これでもかと伝えてくる。

 

一体彼女は何を秘めているのか? その答えは何もまだ、分からないと思っていた。だが、ふとしたアクシデントで斗和が怪我をした時。徐々に蘇り、フラッシュバックとして現れる記憶の中、絢奈の思いを描いたファンディスクの記憶が真実を指し示す。

 

『私が全て奪ってあげる』

 

―――それは、ゲーム本編では決して描かれなかった物語の裏側。生き方を強制され、自分を救う光となってくれた斗和が悲しむのを見た時、周囲の闇を垣間見たからこその絢奈の黒い決意。全てを利用し、全てを奪い。憎しみの果てに彼から全てを奪わんとする、進み始めたのならば二度と戻れない茨の道。

 

(必ずより良い未来を掴んでみせる。それが俺の目標だ)

 

だからこそ、今の「斗和」に託された願いがある。ゲームの登場人物としてではなく、たった一人の人間として。全てを巻き込み墜ちていく破滅の道から彼女も、全てを救えと言う命題が。

 

それは正にゲームのシナリオをひっくり返すもの。正に何処までも続く茨の道。だが彼女の涙は見たくない、ならばどうするか。決まっている、未来なんて壊してしまえ。今ここにはじまるのである、彼自身の戦いが。

 

正に大きな愛が迸り人間の闇を垣間見る、苦きに過ぎるからこそ重すぎる愛が迸るこの作品。溶かすような愛に溺れたい方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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