読書感想:奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳~

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「探検」、もしくは「冒険」という行為に憧れられた事はあるであろうか。世界の何処か、秘境と呼ばれる場所にある誰も見た事のない景色というものをその目で見てみたいと言う憧れを抱かれた事はあられるであろうか。

 

 

残念ながら、今の世界には中々そんな場所は存在しない。秘境と呼ばれる場所はあらかた、人類がその足で踏みしめているから。

 

 だがしかし。物語の世界には未だいくらでも、誰も見た事のない「世界」というものがある。その一つこそがこの作品で描かれている「迷界」である。

 

五千年の昔に発見され、その目を希望で灯より輝かせ潜っていく冒険者達を待ち受け、飲み込んできたかの世界。この世界は、数々の異世界の集合体であり。門をくぐる度に、全く違う世界が広がる、正に千変万化の神秘の集合体。

 

「任せな、帰路の安全はこの俺が保証するぜ!」

 

 そんな世界へと、まるで狂愛かの如く飛び込み、法外な報酬と引き換えに絶対に救助者を助ける「救助屋」と呼ばれる職業の少年がいた。彼の名はユーリ(表紙右)。「棺売り」とも異名を持つ、凄腕の救助屋である。

 

そんな彼はある日、謎の少女、アウラ(表紙左)から依頼を受ける。「ロゴスニア」と呼ばれる迷界の奥深くを目指し家出した、親友でもある大豪商の娘、ネリアを救助してほしいと。

 

 その依頼を叶える為、同行を条件としたアウラを即席で鍛えて、準備を整え共に迷界へ。その最中、とあるアクシデントで辿ることになる、自殺用とでも言わんばかりのハードな順路。かの道筋の中、二人は様々な景色、そしてそれぞれの異世界に生きる生態系を目の当たりにしていく。

 

象とカバを合わせたかのような生物の背に乗り海を渡る中、絶対に抗えぬ迷界の「天災」、生態系の頂点たる「亜竜」の一種の襲撃を受け肝を冷やし。

 

またある時は、美しい湖の近くの洞窟を拠点とし、食料を調達しながら吹雪に備え。

 

更にある時は、光る貝が空に島を作る、重力のない世界を駆け回り。島の一つ一つを支配する狂暴な主と、追手としてやってきた冒険者と、更には好奇心旺盛で気紛れな「亜竜」とぶつかり合う。

 

「私は・・・・・・私の道を歩みます」

 

そんな旅路の果て、幾つもの生と死と向き合い、生への渇望と母親の愛を知り。「彼女」は己を縛る鎖を打ち払い、人生と言う無限の冒険へと飛び出していく。

 

嗚呼、なんて凄いのだろう。そうため息が出てしまう程に、この作品には「命」の息吹が溢れている。まるで引き込まれるかのように、彼等と共に冒険しているかのように。瑞々しくも時に荒々しい、本当の意味での「異世界」がすぐそこに触れられるかのように、匂い立つかのようなロマンを以て、描かれている。

 

故に私はこう言いたい、この作品は正に金賞に相応しい素晴らしさであると。心の奥を擽りわくわくさせ、焚きつけてくれる輝きがあると。

 

真っ直ぐに面白い冒険が読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳 (GA文庫) | 紺野千昭, 大熊まい |本 | 通販 | Amazon