読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか6.5

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前巻感想はこちら↓

読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか6 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、今巻の感想を書いていく前にこの巻のあらすじを見ていただきたい。「長篇集」である。「短篇集」ではない。この言葉は著者である裕夢先生も聞いたことが無いらしい。では、長篇集とは一体、どういう事なのか。その答えを言ってしまおう。その答えは、この巻に込められたそれぞれの掌編は、もはや短編ではなく、短編の形を取った長篇だからである。膨らませればそれだけで一冊分になるほどの濃厚な内容だからである。・5という事で箸休め的なジャブな巻になるかと思えば、真っ直ぐ右ストレートでぶん殴ってくるかのような巻だからである。

 

 

では今巻では一体、何が語られるのか。普通の短編集であったのならば、今までの本編の幕間的な内容であるだろう。あの頃、こんな事があったなんて裏話が語られるような内容となるであろう。

 

 しかし、この巻は「長篇集」である。故に、短編ではない。ならば語られるのは何か。それは暮れ往く夏の最後の残照。夏休みが終わりゆく独特の寂寥感の中、ヒロイン達の思いへと触れていく巻である。

 

「―――彼を、想うよ」

 

「朔はかっこいい、って言ってあげられる女の子でありたいな」

 

隣の県である金沢へと買い物へ、悠月となずなと共に繰り出した夕湖。女子同士の姦しい時間を過ごす中、一度終わってしまった彼への恋をもう一度見つめ、また新しく、それでもと立ち上がっていく。

 

「きっと、深夜のラジオを聴きながら、出す宛てのない手紙を書こうとしてるんだよ」

 

朔と共に自分の望む進路の為に職場体験へと出向いた明日風。朔のそつのなさに自分の夢への距離の遠さ、断絶を知り涙が溢れ。そんな中、彼のふとした救難信号をキャッチし、彼の新たな進路を半歩近づき一緒に考えていく、何気ない夜の星の元で。

 

「ありがとう、朔くん、ありがとう。ずっとずっと、大切にするから」

 

朔と共に、市場へと買い出しの名を取ったデートに出向く優空。二人で、自分達だけの時間を作りながら、ふとした切っ掛けから優空の父親と朔が面通しを済ませ。今まで触れなかった彼の心、居場所のなかった自分が彼の隣で得た、自分だけの居場所に涙し、心のままに母親へと呼びかけ。

 

「―――お前たちは戦士じゃない、戦う女たちだ」

 

憧れの人との練習試合に励む陽。ストイックを極めた先輩との格差を感じ、自分が弱くなったと感じ。けれど、それでもと。朔の言葉に心を再び燃え上がらせ、迷いを振り切りボールへと手を伸ばす。

 

 見つめ直し、また思いに触れて。再び恋は燃え上がる、恋の心に灯がともる。 更に心を穿つ、真っ直ぐな恋が更に心に刺さってくる今巻。

 

さて、こんな巻を読まれた読者様であればこう思われるのではないだろうか。この続きが早急に読みたい、と。私も実際そうである。なので著者である裕夢先生には是非、三カ月後くらいの刊行をお願いしたい次第である。

 

シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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