読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか6

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前巻感想はこちら↓

読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか5 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、もう断る必要もないかもしれないがお先にこの記事についての注意点を述べさせていただこう。この作品の感想について、私はネタバレに配慮する事を諦めている。ワザとではない、私の語彙力ではネタバレを含まなければこの作品の面白さは語りつくせぬからである。と、いう訳で今巻の感想も前巻までを読了されているという前提の元、ネタバレに配慮せず突き進んでいく予定なので、どうかご容赦いただきたい。

 

 

 前巻までを読まれた読者様には、もう語る事も必要ないだろう。夕湖の告白、その否定。確かに彼等の関係性は、唐突に、あっさりと終わりを告げてしまった。仲良しグループの絆を根底から揺るがす事態が起きてしまったのならば、そんな簡単に元に戻れるわけではない。

 

 傷つけてしまった朔も、傷つけられた夕湖も、そしてチーム千歳の仲間達も。誰もが傷つき心揺らす中、優空は朔の隣に寄り添う。私とあなたは何も変わらない、寧ろ今度は私があなたを助けると言わんばかりに。

 

心の中によぎるは一年前の出会い。朔と出会い、夕湖と出会い。最初は最悪だったはずの関係で、喧々諤々とやり合って。

 

「―――あんたの人生は、あんたのもんなんじゃねぇの?」

 

だが、彼の言葉は何故かするりと心の中に入り込んできた。急に訪れた父の危機に混乱の極致にいた時、彼は自分を顧みず助けてくれた。初めて、彼にだけは話せた過去。彼がまるで、何でもないものを見せるかのように明かしてくれた、重きに過ぎる過去。似た痛みを共有し、お互いに似た所を見出して。だからこそ、今隣にいれるからと。

 

 そして、優空の、チーム千歳の助けを借り、後悔の闇の中にいる朔は向き合っていく事になる。己自身の本当と、胸に秘めていた気持ちに。

 

「―――どっちか片っぽだけでも、結ばれたご縁の端っこを握り締めてたらいい。それだけで繋がりは途切れんもんやよ」

 

明日風と共に会いに行った祖母、その言葉に途切れた筈の絆を感じ。

 

「君は、愛されることに慣れすぎて愛し方を知らないんじゃないかな?」

 

明日風と共にの回り道、彼女が突き刺す言葉の刃。自分が見ようとしなかった、気付こうとしていなかった自身の本質。ラムネ瓶の底のビー玉の月、その本当の意味。輝きを反射する、決して手が届かぬ封じ込めるだけのもの、その本質。

 

「たまにはさ、もたれかかってもいいんだよ」

 

陽の柔らかな言葉が背を押す。貴方だけが抱え込む必要はない。だから偶には頼ればいいという優しさ。

 

「相互理解してこいよ!」

 

かつて自身が救い、その在り方を変えた少年、健太の心の叫びが背を張り飛ばす。かつて自身が語った言葉が、巡り巡って自身の背中を蹴り飛ばす。

 

「どの気持ちに、恋という名前をつければいいのかが、分からない」

 

 話をしよう、大切な話を。優空に導かれもう一度夕湖と向かい合い。朔が曝け出す本心。皆に大切なものを貰った、皆が好きだ。だから恋が分からない、心の中に皆がいる。それは、「千歳朔」という少年の等身大の生の感情。

 

「私たちの恋の誠実、不誠実まであなたの価値観で判断される筋合いはありません」

 

その感情を、少し痛烈に、けれど優しく。優空は肯定し赦しを与える。恋の誠実さを貴方だけが決めるな、それは私達も決めるのだから、と。

 

「―――手を、繋いでいようよ」

 

嗚呼、何たることだろう。なんて眩しいことだろう。私達は彼女達を未だ見誤っていたのかもしれない。彼女達は決して弱くなんかなかった。朔というビー玉の月に魅せられ、その光に力を与えられ。彼女達はとっくの昔に強さを持っていた。だからこそ、朔もここから求められていくのだ。本当の意味で、ここから始めるという事を。

 

「千歳くんはラムネ瓶のなか」。この題名の意味をもう一度考えてみるがよい。

 

千歳朔は今までヒーローだったのかもしれない。だが、彼は決して「ヒーロー」ではない。たった一人の「少年」なのだ。だからこそ全部剥ぎ取り曝け出し。本当の意味でもう一度、またここから。彼と言う「少年」の「物語」はここから本当の意味で幕を開けるのである。

 

切なく、熱く、生の感情が叫び木霊し交錯する。衝撃の一巻、その始まりから数えて六巻。全てが一つながりだからこそ、辿り着いたこの光景が正しくエモくて尊い。これだからチラムネは、裕夢先生は、ガガガ文庫はやめられない。

 

八月という終わり往く夏の景色に、この巻は正に相応しいと言えよう。どうか画面の前の読者の皆様も、この終わり往く季節の光景を見届けてほしい。

 

ここに詰め込まれた全てを読み届け、画面の前の読者の皆様は何を思われるのか。感情の大嵐の先にある芽生える気持ちを是非確かめてみてほしい次第である。

 

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