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読書感想:古き掟の魔法騎士 II - 読樹庵 (hatenablog.com)
「誇り」、言うなればプライド。そんな言葉を聞いて画面の前の読者の皆様はどんな要素を連想されるであろうか。その答えは各自の答えであるので、具体的な正当の例は特にないのかもしれない。だが、この作品の根幹でもある「騎士の古き掟」において、画面の前の読者の皆様は何かお気づきのことはないであろうか。
真実のみを語る、心に勇気を灯し、弱気を護り、善を支え、怒りで悪を滅ぼす。お気づきであろうか、この文言の中に「誇り」という部分に関係する言葉は一切ない。では何故、誇りと言うものは描かれていないのか。
その部分、騎士としての「誇り」というものに触れていくのが今巻であり。強敵の襲撃により、戦闘が更に激しさを増すのが今巻なのである。
始まりの一巻で成長の階に手をかけ、二巻で全体的な絆を得て。アルヴィン率いるプリーツェ学級は誰にも否定できぬ力を手に入れ。初陣を見事に制し、万雷の歓声と共に初めての評価を得ていた。
しかし、それを快く思わぬ者達が存在する。それはエリーゼ(表紙下)を始めとする伝統三学級の者達。そんな彼女達とカリキュラム最後の授業として共に過ごす事になる、一月の妖精界合宿。
その合宿の中、エリーゼ達は目撃する事になる。アルヴィン達の持つ力がどれだけ本当であるかという事。自分達の力が、「誇り」がどれだけ脆かったのかという事を。
「わかるだろ? お前達の言う誇りは、自分より優れた者と対峙しただけで、簡単に壊れてしまう。ましてや、死んだら何も残らない」
自分達にもできる筈だと意気揚々と挑んだ強敵な妖魔に簡単に蹴散らされ。死の危機へと追い込まれ全部の仮面をはぎ取られ。そんな中、駆けつけたシドやアルヴィン達の圧倒的な力と決して折れぬ誇りを目撃し。自分の信じていたものをへし折られ、反論する言葉すらも無くすエリーゼ。
全てを折られ何もかも無くし。そんな彼女達を息も付かせぬとばかりに襲うのは、狂暴なる妖魔の群。
その中心、そこに新たな敵がいる。その名、リフィス。重力を操る魔法を使う騎士であり、シドと同じ時代を駆け抜けた騎士であり、彼への一方的な憎悪を募らせるもの。
リフィスの諫言により、シドへと集中する批判。その批判に飲み込まれていきそうになる希望。
「もし、私達が剣を持たない無力な民だったならなッ! でも―――私達は騎士だぞ!?」
その姿を見、己の今の姿を垣間見。エリーゼの心に浮かぶ義憤、それは己自身への怒り。何も出来ない、弱い自分が恥ずかしいと言う叫び。
最早何も出来る事は無いのか、否、一つだけある。それを行うには、全員の力が今、求められる。
その希望と願い、渇望の元に全ての学級の者達は纏まり。協力して傷つけられながらも掴み、シドの元に届けられたもの。それは名もなき、だが真っ直ぐで美しき力。かつて彼が自分自身で手放した、彼自身の剣。
「”騎士は真実のみを語る”・・・・・・”必ず勝つ”」
「騎士の”誇り”というものは、自分以外の何かのために張るものだ」
今、彼の中に大いなる力の為の鍵は舞い戻った。その胸を、背を支えるのは愛すべき後進達の声。目の前にいるのは誇りの意味をはき違えたかつての友。ならば、負ける理由が何処にある。
更なる熱さが全体に広まり、その相乗効果で更に熱さと面白さを高め駆け抜けていく今巻。
シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。