読書感想:君は初恋の人、の娘2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:君は初恋の人、の娘 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 叶わなかった初恋が、許されぬ初恋が心を焦がす。倫理観的に視ればスリーアウトチェンジ、而して何処までも真っ直ぐな純愛。前巻を読んだうえで改めて、今作品を簡潔に述べるのならばそんな枕詞がいいのかもしれない。ではそんな前巻を経て、今巻で本当に初恋は音を立てて動き出すのだろうか?

 

 

 答えは、控えめな否定が良いのだろうか。大胆な否定が良いのだろうか。画面の前の読者の皆様、もうお察ししていただけただろうか。イッチこと一悟の初恋は実らなかった。そして、初恋の相手である朔良の死を完全に受け止めきれず、どこか引きずるままだった。だからこそ、彼の初恋は終わりきれていない。消えぬ初恋の残滓は、まだ彼の心を焦がしているのだ。

 

そんな彼の心に気付かぬルナではなく、それでも彼の心が欲しいと懸命に彼の心へ手を伸ばしていく。私を見て、お母さんを見てしまうのは分かる、だけど私をちゃんとみて、と彼へ懸命に迫っていく。

 

一悟の勤務先にバイトとして入社しあっという間に職場に馴染み、見識を広げる中でケガで離脱したベテランの代わりを任せてもらえる程にその力を見せつけ。

 

「今日、お仕事が終わったら・・・・・・私の家に、来てくれませんか?」

 

そんな姿を見せる半面、彼にだけ自身の弱さを見せて頼り。距離感を掴みかねるのならば模索して一歩ずつ。いけない事とは分かっているけれど、どうしても惹かれてしまう。

 

だが、惹かれたのは彼女か、それとも「彼女」か。同僚たちも一緒に訪れた夏祭り。母親のかつて着た浴衣を着たルナを見て、どうしても重なってしまう面影。もう二度と手を伸ばせぬ、取り戻せぬ初恋の幻影が一悟の心に突き刺さる。

 

「イッチが、お母さんに会いたいのかなって、そう思って、会わせたくて」

 

「お母さん、初恋の人があなたで幸せだったと思う」

 

 そんな彼へと、ルナは願う。祖父母と再会する里帰りについてきてほしいと。同行し、彼にとってはなじみ深いルナの祖父母と再会し、今まで知らなかった彼等の思いを知り。そして朔良が眠る墓へと赴き。否応なく、突き付けられる彼女の死という現実。けれどそれは必要な通過儀礼。初恋を本当の意味で終わらせるための、おわかれの儀式。

 

「辛い事もいっぱいあるけど、でも、私の好きになった人が―――初恋の人があなたで本当によかった」

 

もう面影は重ならない、やっと見えだす彼女の素顔。

 

だが、ラブコメはここからが本当の始まりである。そして恋敵はすぐそばに潜んでいる。

 

切なく苦しく、まるで鼓動するかのように。染み入るような切なさの甘さが高まる今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。