読書感想:君は初恋の人、の娘

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 さて、初恋と言うものは誰にだって一度は訪れるものである。それは勿論、確かな事であろう。では、初恋と言うものが叶う確率というものは幾ら位なのであろうか? ましてや、初恋の相手と結ばれる確率というものは、果たしてどのくらいなのであろうか?

 

 

創作物においては、そんな展開もよく見る展開である。しかし、現実はそう甘くはない。そんな甘い夢は、文字通り夢物語として終わるのが普通なのである。

 

この作品の主人公、一悟もまたそんな初恋の残滓を抱えた者の一人である。二十八歳、大型ホームセンターの敏腕店長と勤め上げながらも、女性関係に何処か空虚な一面を持つ彼。

 

 彼には忘れられない初恋の相手がいた。相手の名は朔良。三歳年上の初恋のお姉さんであり、両親の問題から圧倒的年上との結婚を余儀なくされ、一悟の前から去ってしまった少女である。だが、運命とは残酷なのか、それとも褒美でも与えようと言うのか。ある日、暴漢から助けた少女。それは朔良の生き写しとも言える娘、ルナ(表紙)だったのだ。

 

彼女の話により、朔良は旦那とは死別し、女手一つでルナを育てるも数年前に事故死してしまった事を知る一悟。

 

「私を、イッチの恋人にしてくれませんか?」

 

 打ちひしがれる彼に、朔良が呼んだ渾名で呼んでルナは言う。貴方が好きだ、恋人にしてほしいと。

 

生前の朔良が語っていた一悟の虚像に惹かれ、実際の一悟にあってその想いは更に強くなり。彼女は彼の心を手に入れようと、行動を開始する。

 

ある時は助けてくれたお礼だと言ってお弁当を持ってきてくれたり。またある時は、自分の一人暮らしの家に彼を引っ張り込んだり。視察という名目で、二人っきりでデートしたり。

 

 拒めれば良かった。拒む事だって出来た。けれど、それが出来なかった。もしルナが朔良の生き写しでなかったのなら一悟だって拒めたかもしれない。だが、どうしても彼女に重ねてしまう。彼女に朔良の面影を重ね、彼女との日々を取り戻さんとするかのように惹かれてしまう。

 

恋をしたのは、惹かれているのは彼女自身か、それとも虚像か。

 

このままずぶずぶと、まるで互いに依存しあうかのように。そんな深みへと嵌る事を拒み、一悟は改めてルナと向き合い、きちんと分別をつけること、破滅しない為の選択肢を選ぼうとする。

 

「今はそれでもいいよ」

 

「その内、私自身を好きになってもらう、絶対に」

 

 だけど、それでも、と。新しいバイトとして一悟の職場に現れたルナは改めての決意と共に彼に言う。この想いは忘れられなかった、止められなかった。それどころか更に燃え上がってしまった。だから、絶対にあなたを、と。

 

年の差十三歳、倫理から見ればスリーアウト間違いなし。だが、確かにこの二人の愛は純愛なのだ。ちょっと歪で不純かもしれないけれど、それでも愛なのだ、確かに。

 

まるで、しとしとと降る雨のように心に沁み込んできて、確かに心を濡らしてくるこの作品。

 

ビターな所のあるラブコメが好きな読者様、不純で背徳感のあるラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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