読書感想:放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている

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※画面の前の読者の皆様の中でまだ高校生くらいの方々、この作品における登場人物の行動の真似っこは止めましょう。警察に捕まっても自己責任です。

 

 さて、午後十一時と言えばどんな時間であろうか。今のコロナ旋風吹き荒れる時節でなければどんな時間だっただろうか。

 

その答えは、都市部のようなある程度の都会であれば簡単である。眠らない町のもう一つの側面、ネオンの明り煌めく、子供はお断りの時間である。

 

 そんな、子供にとっては非日常とも呼べる時間。とある町の片隅で、この作品の主人公とヒロインは出会った。主人公の名前は大和。母親と二人暮らしである程度家事が出来る事以外は平凡な少年。ヒロインの名前は聖良(表紙)。可憐な容姿と神秘的な雰囲気で人を惹きつけながらも、人に近寄られず孤高に過ごす少女である。

 

「きみも来る?」

 

午後十一時のコンビニ帰り、繁華街に消えていこうとする聖良に声をかけ、誘われるままに繰り出した夜の繁華街。ゲーセンで聖良にこてんぱんにされ、カラオケで二人で歌い明かしたりして。

 

 一夜限りの関係だと思った、名もない関係。だがそれは、聖良が学校でも関わってきたことによりその関係は続き、少しずつ二人の関わり合いは増えていく。

 

「―――話したいと思ったから」

 

大和の目に退屈さを見出し、親近感を覚えた。そう嘯く聖良に、不登校時代の自分の過去を話し。今は私がいるじゃん、と笑われて心が軽くなって。

 

そんな日々の中、夜の街で暴漢に襲われそうになりながら聖良に救われたり。

 

CDショップに入って、初めてCDの貸し借りをしてみたり。ダーツやビリヤードといった、今までやった事もない遊びを聖良から教えてもらって、真夜中だけじゃなく日中も関わる時間が増えだして。

 

 そんな日々の中、ちょっとしたすれ違いと聖良の家族の会合からの脱走といった急転直下が巻き起こり。その中で大和は聖良が抱えているもの、彼女が抱えた影の正体へと迫っていく。

 

親に道を強制され、そんな環境から逃げ出して。けれどそれでも、一人。どこにも居場所はない、だからと言わんばかりにふらふらと。

 

彼女が抱えた思い、秘密基地で語られた彼女の孤独。それを聞いた大和の中に宿る一つの思い。

 

「確かに、白瀬は普通の人とは違うのかもしれません。けど、俺は白瀬から拒絶されない限りは離れませんよ。それに、もし本当に白瀬が道を踏み外そうとしたら、俺がちゃんと止めます」

 

 拠り所になれるなんて思っちゃいない。けれど、関わり続けたいという思いは、初めて見つけた「やりたい事」。だから、側にいたい。

 

広い世界に独りぼっち、そんな二人はまるで必然であるかのように出会い、一歩ずつ関係を始めた。まるでそれが自然であるかのように。

 

 この作品は何処までも自然体である。特別な事は何もない、大きなイベントだってありはしない。けれどそんな中、おっかなびっくり少しずつ距離を詰めていく二人の、仄かに淡い甘さが魅力を以て描かれているのである。

 

コメディを排し、純粋なラブに全力投球。その作りが何処かノスタルジックに感じるのは私だけだろうか。だがそういう作りだからこそ、今のラブコメ界においては唯一無二となるであろう作品である。そう言いたい。

 

緻密で繊細なラブが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

放課後の聖女さんが尊いだけじゃないことを俺は知っている (ファンタジア文庫) | 戸塚 陸, たくぼん |本 | 通販 | Amazon