読書感想:灰原くんの強くて青春ニューゲーム4

 

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読書感想:灰原くんの強くて青春ニューゲーム3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、青春とは何か。青春とは恋、音楽、様々な答えがあるかもしれない。だが青春とは、未知と選択の繰り返しでもある。そう、「選択」である。夏希は今、選択を迫られている。陽花里と詩の間で、何方の恋を選ぶのかを。それは彼の一周目では決して得られなかった、二周目だからこその問題だ。だからこそ思い悩む、未知なる状況に。

 

 

全員の思いを纏めて落としどころに落として、幸福な結末、を導ければ。いっそどこぞのラノベみたいにハーレムルートにいってみれば。そんな夢想は叶いはしない。何故ならば、夏希にそんな選択は出来ないから。強くてニューゲーム出来ても、根底は何も変わらないからだ。

 

「・・・・・・正直な話、どうすればいいのか分からない」

 

「私と一緒に、バンドやらない?」

 

夏休みの出来事から近づく陽花里との距離、負けじと進む詩のアプローチ。関りがそんなにない筈の芹香に見破られるほどには懊悩する夏希は、文化祭が近づく中で芹香からバンドに誘われる。一度きりのこの時、私達の音楽で世界を変えてやろうと、彼の音に惚れこんだ芹香。彼女からの誘いを受ける事となり、夏希は寄せ集めバンドの一員となる。

 

 本番まで一カ月半。軽音部の影が薄いベーシスト、鳴と寡黙だが良い音を持つ先輩ドラマー、健吾を仲間に加え。芹香に合わせようとして躓いたり、中々音が合わずに戸惑ったり。けれど、この一瞬には全力で。そう言わんばかりに並び立ちながら全ての時間を音楽に捧げる夏希達。その練習の中、芹香からオリジナルの曲の作詞を依頼された夏希は歌詞の中に告白したい人への思いを託し、一つの曲を完成させる。

 

「でも、間に合わなかったなぁ」

 

心届けて、それを受け止められず。傷つけてしまう、否応もなく。それは青春の影。光の正道の影に必ずある、叶わなかった思い。だけど選ぶしかない。そうでなくては届けられないから。

 

「―――月が、綺麗ですね」

 

そして、青臭くてちょっと格好つけてでも、一度きりの歌に乗せて届ける彼女への思い。告白は彼女と共に、それにふさわしいらしい言葉で。勿論答えは決まっている。故に、彼と彼女の思いは成就する。

 

だけど、それは確かな選択の結果だ。選んだ結果が波紋を起こすのを止められない。その選択が彼等の関係に影響を及ぼすのは、もう決まった事なのだ。それぞれの選択とスタートの果て、夏希が真の意味で一人となったのもまた。

 

そう、ここからは一人きり。そしてまさしく未知の世界。まだ皆で笑い合える未来への道が開けたとは言えない。胴体着陸が如き勢いで選択した未来、そこにまだ向き合うべきものは待っている。

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム、ここからが真の意味で彼のやり直しの真価を問われる事となるのかもしれない。

 

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