読書感想:〆切前には百合が捗る

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はLGBTとは何の略がご存じであろうか。答えを先に言ってしまうのであれば、レズ、ゲイ、バイ、トランス。言わば性的マイノリティと呼ばれる人達の事である。昨今の世の中、少しずつそんな言葉も周知され始めてはいるが、実際のところはどうなのであろうか。

 

答えはある意味簡単である。その言葉が周知されはじめても、まだ周知が始まっただけである。まだまだ世の中には差別と偏見が多いのが哀しきかな事実なのだ。

 

話題の映画も放映しない、話題のアニメも映らない程度の片田舎。そこで生活する少女、白川愛結(表紙左)。彼女には秘密があった。それはレズ、同性の人が好きであるという事。

 

彼女にとって不幸だった事は間違いなく、まだまだ差別と偏見が残る田舎に住んでいたという事。そして幸運だった事は、東京には従姉妹である大人の女性、白川京が住んでいたという事だ。

 

白川京、その名前に聞き覚えのある読者様も数多くおられるだろう。そう、かの大人気作品「妹さえいればいい。」シリーズの主人公の一人であり、ただの一般人から敏腕編集者にまで上り詰めた、一番成長が著しかったと言っても過言ではない女性である。但し、この作品はスピンオフという訳ではない。あくまでも世界観を同じくする作品というだけという事をご承知願いたい。

 

「あたしは『かわいそう』なんかじゃない!」

 

憐れまれた事が怒りに変わり暴力事件を起こし停学となり、生活を形成する全てとの断絶が決定となった愛結は東京へと家出し、京に拾われる。

 

「そ。逃げようとしたら鎖骨折ってもいいから」

 

そんな彼女は生活の糧及び住む場所の確保の手段として、一人のラノベ作家のお世話のお仕事を紹介される。彼女の名前は海老原優佳理(表紙右)。作家としての名前は海老ヒカリ。かつて可児那由多の再来と言われるも、京に懐いて移籍した売れっ子作家(しかし〆きり破りの常習犯の問題児)である。

 

「小説を書くために何より必要なのは、インプットよ」

 

〆切り前にもかかわらず、何も知らぬ愛結をそんな理屈で言いくるめ。水族館やスカイツリーなどあちらこちらへと連れまわす優佳理。

 

「ここに来れてよかったです。ほんとうに」

 

だが、そんな刺激的な日々が何より楽しくて。何より惚れた彼女と一緒にいれる事が嬉しくて。次第に心ほぐれていく愛結。

 

だが、優佳理もまた心に秘密を抱えていた。それはどこか空虚な心。自分は誰の特別にもなりたくない、量産型の何処にでもいる一人になりたい、恋とか愛なんてものが分からないというどこかがらんどうな闇。

 

「あたしは、先生が好きです」

 

だからなのだろう、まるでパズルのピースのようにぴったりと愛結がその心に当てはまったのは。だからなのだろう。初めていなくならないでほしいという執着心を覚えられたのは。

 

巷で流行のガルコメとは一味も二味も違う。百合というものの本質、そして現実にこれでもかと焦点を当てながらも確かな甘さを持ち、どこか背中を押してくれるのがこの作品である。

 

この世界で何処か生きづらい読者の皆様、百合が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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