前巻感想はこちら↓
読書感想:〆切前には百合が捗る - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻の最後でまるでパズルのピースが噛み合うように、女同士だけれど恋人同士になった愛結と優佳理であるがその展開は、前巻を読まれた読者様であれば無論、ご存じであろう。だが付き合いだして全てが終わり、という訳にもいかない。本当のラブコメというのは、付き合いだしてからが本番と言ってもいいかもしれないからである。
そして、二人の恋は百合である。当事者同士が幸せであれば良い、と言ってしまえばそれでいいかもしれない。実際問題、当事者同士が幸せであるのが一番重要であり、それだけで良い・・・と言えれば良かった。だが、実際にはそれだけで終われないのが常である。二人だけで世界が完結している訳でもなく、周りの理解と協力を得なければならない場合もある。そして、同性愛というのはやはりまだ、中々に受け入れられにくいものがあり。常識と幸せの価値観の押し付け、という事態も往々にして起こり得るものである。
「もしかして仕事しようとしてたんですか?」
「仕事をしようとしていたわ」
めでたく付き合いだしても決して大本が変わるわけではなく。相も変わらず自堕落で気ままな猫の如き優佳理に振り回される愛結。
当然かもしれない。何故ならまだ、全てを覗いた訳ではないのだから。ある時は長風呂な優佳理の入浴に乱入し、一緒にお風呂でいちゃいちゃしたり。またある時は、伊勢海老の料理の味を覚えるために本場である伊勢まで逃亡したり。
そんな日々の中、愛結に訪れる新たな出会い。その名は朋香。優佳理を慕う人気アイドル声優であり、愛結と同じく同性愛者である。
初めて自分に出来た仲間であり友達。しかし、自分よりも多くのものを持っている朋香の言葉に愛結の心は揺れ惑い。彼女と愛結が仲良くなったことに、小さな嫉妬を覚えた優佳理の心は思い悩む。
そんな日々の中、断食したり朋香のライブにいったりと過ぎていく幸せな日々。だが、夏休みの終わりと共に愛結の一旦の里帰り、そこからの激怒した両親による引き離しという離別の危機は唐突に訪れる。
立ち止まってていいのか、特別な存在を失ってもいいのか。
「先生はバカですか?」
「え、先生は正しく生きたかったんですか?」
背を押すのは、彼女がいなければ何も出来ないと言う、積み重ねていた事実と朋香の言葉。迷う事は無い、正しく生きる必要は何処にもないという、己の選択を迫る言葉。
「なる」
「なります」
だからこそ、まるであの日の愛結のように。そこに大人の格好良さを足した姿で攫いに訪れ。己の選択を愛結と共に彼女の両親へと突き付け。
「根っからの不良なのよ、私は」
そして気付いた己の根幹と、何よりも大切な彼女と共に飛び出していく。他人事の傍観者ではなく自身の意志で。どこにでも転がっているようなありふれたラブストーリーを続けるために。
ガールズラブコメの根底へと踏み込み、己の幸せを否定するなという反逆の刃を突き付ける。ゆるふわな中のシリアス、そして彼女達の選択が尊さを齎す今巻。
ここで一旦の幕引きであるが、いつかしれっと帰ってきた彼女達と出会いたい。そう願うのは私だけだろうか。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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