さて、銀河鉄道999というアニメがあるが、知っている、若しくは見た事があると言う読者様は、画面の前にはそうはおられないだろう、きっと。そんな名作アニメとは多分関係ないが、画面の前の読者の皆様は「銀河鉄道の夜」と言う作品をご存じであろうか。文学作品として名作であるこの作品は、宮沢賢治という作家の作品である。しかし今や宮沢賢治、という名前を知るのは国語の教科書よりも歴史の教科書の方が多いかもしれない。
しかし宮沢賢治と言えば先述の銀河鉄道の夜や、雨にも負けず等の様々な作品を手掛けられていた訳であり。この作品はそんな、宮沢賢治を題材にした作品なのである。
岩手山のふもとにある田舎の高校に通う少年、幸文(表紙左)。彼が尊敬する文豪こそ、岩手県の誇る作家である宮沢賢治。愛するあまり一人で文芸部を復活させ、好きにその著作を読んだり、足跡を辿ったりする日々。 そんなある日、まるで「風の又三郎」のように何かの始まりを予感する風が吹く中で現れた転校生、その名も美鐘(表紙右)。東京からやってきたギャル、あっという間に人気になる中で陰キャな性格故に話しかけることは出来ず。
「ね、よければその本、貸してくれない?」
「いくつか質問したいんだけど、いい?」
だが彼女は向こうから話しかけてきて、自分の本を貸すことになり。彼女はあっという間に読破してきて、感じた疑問をぶつけてきて。その疑問に自分の言葉で丁寧に答えたら、彼女は何故か文芸部に入部してきて。一人が二人となって、周囲に驚かれたりしながら。2人での文芸部での日々は始まる。
「ほんとうのさいわい、ってなんだと思う?」
ギャルらしくアグレッシブにグイグイ来る美鐘。彼女に振り回され断り切れず、観光案内する事になったり、何故か幸文の家族とも知り合いになったりする中。ふと聞かれたのは、宮沢賢治の作品の中にもある言葉。 ほんとうのさいわい、とは何か。どう生きるのか。その問いかけの意味は彼女の事情から。病弱で、転校してきたのも療養のため。だからこそ、感銘を受けたと言う事で。
「たとえそれが、運命に逆らうことだとしても!」
そんな彼女に心揺らされ惹かれていく。だけど心は立ち止まる。その中、彼女が忘れた薬を届ける最中に迷い込んだのは、まるでジョバンニとカンパネルラが迷い込んだ世界のような、星の世界。 南十字星で降りようとする彼女、引き留めるために叫ぶのは勇気を込めた誓いの叫び。
「これもほんとうのさいわいだと思う」
その先に見つけた、自分だけの願い、彼女の為の願い。それは正に、新たな物語の始まりとなるのだ。
爽やかでちょっと不思議な青春の繰り広げられるこの作品。真っ直ぐな青春を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。