読書感想:極めて傲慢たる悪役貴族の所業 III

 

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読書感想:極めて傲慢たる悪役貴族の所業 II - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、悪役貴族ではあるものの、肝心な部分は寧ろ善寄りな為、気が付けば彼の魅力に惹かれた者達により派閥が形成され、胃を痛める事も多くなってきたこの作品の主人公、ルーク。しかし忘れてはいけぬ、この作品の「本来」の主人公は、アベルであると言う事を。しかしまだまだ、アベルは主人公の器足りえず、ルークを破滅させる、その力を持っている訳でもない。そんな彼が成長のきっかけをつかむのが、今巻なのである。

 

 

 

「君、今日から僕の駒ね」

 

賊の手引きをした男爵家令嬢、シトリカがヨランドによって駒となる、という物語的にはもっと後半で起きるイベントが、形を変えて序盤で発生してしまうという事態が発生し。

 

「―――まぁいい」

 

そんな事にはなっている、とは露知らず。アベルの強さの秘訣、その一端に感づきつつあるルークは前巻で従えた氷竜に「ディア」という名前を付け、新たな魔法を試し。 これまで通り襲い来る者は潰す、という方針の彼の知らぬ所で。ルークを狙う黒幕は、今度は油断させるべく身近にいる者に手を下させようと画策する。

 

まず手始めに、ルークの母親を拉致したと言うハッタリで彼の事を捕らえようとし。しかし彼にとっては、つまらぬ待ち時間。あっさり危機を脱し、下手人たちのアジトへ敢えて案内させ、助けに来たアリスとミア、エレオノーラに任せたらあっという間に終わらせてしまい。やはり木っ端の者では駄目だ、と判断した黒幕は次の策として、ルークの近くにいる者に目をつける。

 

その人物こそがアベル。属性竜を手なずけた事を祝うパーティーの場、リリーを人質に取られたアベルは戦うしかなく。

 

「ルークくん・・・・・・僕と戦って欲しい」

 

まだまだ及ばぬ、筈であった。だが、事態はルークの予想外の方向へ。まだ確かに届かなった。だけど、命の危機を一瞬でも感じ、魔法を使わされるくらいには。最早片手間では相手に出来ぬ、という事実に心踊るものを感じながらもアベルを下し。彼が今おかれている状況を聞き出す。

 

「―――僕がなるよ。ルークくんが全力を出して戦えるような、好敵手に」

 

助けてもいい、ならばその代わりに何が出来る、そう問いかけられて、アベルが返すのはルークの心の中での望み。それは、好敵手の存在。今は未だ届かないけれど、そんな存在にいつかなってみせるから、と宣言し。笑いと共にルークは、あっさりとこんな事か、とさっさと黒幕を捕らえてリリーを助け出して終わらせてみせるのだ。

 

本来の主人公の成長、その先に物語が大きく動き出す今巻。シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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