読書感想:猫かぶり令嬢アリアの攻防

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様は「ルパン三世」はご存じであろう。基本的にはお調子者、しかし大切な所はきちんと格好良く、仲間と共にきめて見せる怪盗。その一味であり紅一点である峰不二子の事もご存じであろう。彼女は基本的に素を見せぬ。ルパンたちの前でも時に猫を被っている。 この作品ではこの、「猫を被る」という要素が重要なのである。

 

 

 

清楚な美貌とはかなげな表情、今時珍しい清純な貴族令嬢。エルスター男爵家、という金細工師から始まった貴族の家の養女、アリア(表紙)。夜会において注目を集め時に嫉妬すらもその身に背負う彼女。

 

「あたしは絶対、捕まらない」

 

・・・しかし、それは表の顔、本当の顔を隠す仮面。その裏の本性は強か、時に図太い下町育ち。そして今、彼女が暮らす国の王都を賑わす宝石泥棒、「烏」である。

 

しかし、彼女は何故か盗んだ宝石は最後には返していた。そこにはとある理由がある。

 

『いいか、大罪が新たな持ち主の魂を蝕む前に、取り憑いた財宝を回収して、この王冠に戻すんだ』

 

その理由とは、偏に追放されかけの精霊、バルトに根差す。養父であるヨーナスが管理していた国宝の豪奢な王冠、しかしそれは何故かある日腐り落ちていて。目覚めていたバルトが言うには、この王冠の輝きに封じられていた七つの大罪が封印が解け解き放たれてしまったから。持ち主ごと世界を破滅に導く前に、貴族たちを中心に取りつき始めた大罪を回収して、と願われ仕方なく了承し。国宝の破損の判明、というヨーナスの破滅を回避する為にも、三か月の間に全部回収して見せると決意する。

 

「さては君は―――女か」

 

途中まではうまく行っていた。しかし、彼女の正体をあっさり見破る者が。その名はラウル、「蒼月の聖騎士」との異名を持つ治安の守り手。あっさりと正体を見破られ、何とか逃げ出しはしたけれど。マークされるのは避けられず。小細工を弄して捲こうとはするがあっさりと見破られ、追い詰められていく。

 

「君の行動に理由があるのなら、私はそれを信じたいのだ」

 

最初は彼の、上から目線の救いの手に噛みつこうとして。だけど何処までも真っ直ぐな彼の誠実さに、段々心が揺らいで。

 

「責任を取らせてほしい」

 

更には、七つの大罪の一つに蝕まれアリアを傷つけそうになったラウルに、責任を取らせてほしいと詰め寄られる事になったり。段々追いかけっこが色を変えていく中。王妃様の元へ宝石を盗みに入った後、奇妙な共通点が明らかになり、物語が急に動き出す。

 

回収された宝石の共通点、それは王家から贈られた、というもの。ならば王様が犯人か? 否、きっと王様を陥れたいものがいる。その正体を探る為ラウルに聞きに行けば、そこでラウルの傍に居た黒幕の毒牙が迫って。

 

「せめてこうしたときは、助けを呼んでくれないか」

 

何とかラウルの救援は間に合い、臆病な彼女の本心は彼により汲み取られるも。

 

「こんなの、回収できない」

 

そこで黒幕、最後の策は発動する。それは「輝き」という言葉への勘違いで見逃していたもの。最後の七つの大罪、その在処はあまりにも多くの者の元に。

 

「なにも奪われなかった。大切なものはすでに、彼女の中にあったから」

 

その大罪はアリアの元にも。大切な育ての母を奪われた怒りに駆られ、全てを壊してしまおうとするアリア。 だけど彼女の目を覚まさせるものが、一つだけあった。それは守り続けられた母親の、最後の言葉。 彼女は何も奪われず、幸せだったと言う証明。バルトが竜の姿に戻り、怒りの炎を消して。

 

「・・・・・・めでたし、めでたし」

 

「・・・・・・今のは、目にごみが入ったの」

 

最後の大罪も、豪胆な国策で大体が回収され平和が戻り。その平和の中、ラウルにより特別に作られた輝きがアリアに送られ。彼女の心はどうしようもなく、彼に囚われてしまうのだ。

 

ドタバタにくすりと、胸を打つ愛にほろほろと。万感の思いが読み終えたら巡る、かもしれぬこの作品。 心から楽しめるファンタジーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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